肩や腰に強い水流を当てて、凝りをほぐす。足元からぷくぷくと泡が立ちのぼる。ジェットバスや泡風呂は、温浴施設でもっとも人気のある浴槽のひとつです。
ただ、この設備が法令上もっとも厳しく扱われている浴槽であることは、あまり知られていません。厚生労働省の衛生等管理要領では「気泡発生装置等」として個別に規定され、普通の浴槽には課されない条件がいくつも定められています。
この記事では、温浴施設で働く現場スタッフの視点から、ジェットバスの2つの方式、法令が求める管理、そして利用するうえでの注意点を解説します。
ジェットバスには2つの方式がある
ひとくちにジェットバスと言っても、噴き出しているものが違います。
気泡式(エアロ方式)
ブロワーという送風機で空気を送り込み、細かい泡を発生させる方式です。浴槽の底や側面にある穴から、泡が立ちのぼってくるタイプがこれにあたります。
泡が肌に当たる感触はやわらかく、刺激が穏やかです。「バイブラ」「気泡浴」などと呼ばれることもあります。

水流式(ジェット方式)
ポンプで浴槽の水を吸い込み、ノズルから勢いよく噴き出す方式です。肩や腰、ふくらはぎといった部位に、強い水流を当てられるように設計されています。
「ジェットバス」と聞いて多くの方が思い浮かべるのはこちらでしょう。水流に空気を巻き込ませて、泡と水流を組み合わせているタイプもあります。

法令上はどちらも同じ扱い
衛生管理の観点では、この2つは区別されません。厚生労働省の衛生等管理要領は、「気泡発生装置、ジェット噴射装置等微小な水粒を発生させる設備」をまとめて「気泡発生装置等」と定義しています。
共通しているのは、空気中に細かい水の粒(エアロゾル)をまき散らすという点です。そして、ここに最大のリスクがあります。
なぜエアロゾルが問題なのか
レジオネラ属菌による感染は、菌を含んだ水を飲むことではなく、エアロゾルを吸い込むことで起こるとされています。
レジオネラ症防止対策の3原則は、「レジオネラ属菌を増やさない」「バイオフィルム(ぬめり)をつけない」「エアロゾルを吸い込ませない」の3つです。ジェットバスは、このうち最後のひとつに真正面から関わる設備ということになります。
仮に浴槽水に菌がいた場合、普通に浸かっているだけなら吸い込むリスクは限定的です。しかし気泡や噴流があれば、菌を含んだ微細な水滴が顔の高さまで舞い上がります。レジオネラ属菌については温泉の「レジオネラ菌」って何が危険?|感染経路と予防対策で詳しく解説しています。
だからこそ、ジェットバスには別格の管理が求められるのです。
【重要】「連日使用している浴槽水」は使わないこととされている
厚生労働省の衛生等管理要領で、ジェットバスについてもっとも大きな位置を占めるのがこの規定です。
要領では、構造設備の基準として「気泡発生装置等を設置する場合には、連日使用している浴槽水を用いる構造でないこと」、衛生管理の基準として「浴槽に気泡発生装置等を設置している場合は、連日使用している浴槽水を使用しないこと」と、2か所にわたって示されています。
「連日使用している浴槽水」とは何か
ここは正確に理解しておく必要があります。
要領の水質検査の規定では、浴槽水を「毎日完全に換水している浴槽水」と「連日使用している浴槽水」に分けています。つまり毎日完全に換水していない浴槽水は、すべて「連日使用」に該当します。
浴槽の清掃については「毎日完全に換水して清掃すること。ただし、これにより難い場合にあっても、1週間に1回以上完全に換水して清掃」とされています。この週1回換水で運用している浴槽水も、「連日使用している浴槽水」にあたるということになります。
理由は単純で、時間の経過した湯ほど菌が増えるリスクが高く、それをエアロゾルにして撒くのは危険だからです。換水の考え方については温泉の換水とは?|法令で決まる頻度と緊急換水の判断基準をご覧ください。
実際の規制は自治体の条例による
ただし、ここで押さえておきたいことがあります。
衛生等管理要領は、厚生労働省が示した指針・技術的助言という位置づけです。営業者を直接縛るのは、公衆浴場法に基づく各都道府県・市の条例です。要領の内容がどこまで条文に落とし込まれているか、どう運用されているかは、自治体によって差があります。
実際、循環ろ過を行う浴槽にジェットが設置されている施設は各地にあります。条例での扱い、既存施設への経過措置、ジェット系統を別構成にしているケースなど、事情はさまざまです。
自施設の設備がどう扱われるのかは、所轄の保健所に確認するのが確実です。 設備の新設や改修を検討する際には、事前相談が欠かせません。立入検査で確認される項目でもあります。
なお打たせ湯やシャワーについては、「循環している浴槽水を用いる構造でないこと」と明確に示されています。
施設側が行っている管理
ジェットバスまわりでは、通常の浴槽管理に加えていくつもの対応が必要になります。
水質検査の回数が増える
自治体によっては、気泡発生装置等がある浴槽はレジオネラ属菌の検査回数を増やすよう求めています。連日使用の浴槽水で年2回以上のところ、気泡発生装置がある場合は年4回以上、といった形です。
検査の頻度が倍になるということは、それだけリスクが高いと見なされているということです。
残留塩素をしっかり保つ
レジオネラ対策として、遊離残留塩素を一定以上に保つことが基本となります。とくに気泡発生装置のある浴槽では、濃度の維持が重要になります。
ところが、ここに技術的な難しさがあります。空気を大量に送り込むと、塩素が揮散しやすくなるのです。泡で水面が攪拌されれば、塩素は抜けていきます。数値が下がりやすい浴槽ほど、こまめな測定が必要になります。塩素が上がらない原因は温泉施設で塩素が上がらない!|原因8つと現場の対処法を現場スタッフが解説で整理しています。
装置内部の清掃と消毒
見落とされがちですが、ジェットバスの配管やノズルの内部もバイオフィルム(ぬめり)が付着しやすい場所です。
管理要領でも、気泡発生装置は適宜清掃・消毒することとされています。ろ過器や循環配管だけでなく、集毛器、水位計配管、貯湯槽、そして気泡発生装置にも生物膜は付きます。浴槽のヌメリ対策|バイオフィルムの除去と予防もあわせてご覧ください。
空気取入口の管理
気泡式では、ブロワーが外から空気を吸い込んで浴槽へ送ります。このとき空気取入口から土ぼこりが入らないようにすることが、法令で明記されています。
取入口の位置、周辺の清掃、フィルターの点検——地味な作業ですが、浴槽に何を送り込んでいるかに直結する管理項目です。
操作方法とその理由
ジェットバスの動かし方は、施設によって違います。
ボタンを押すと一定時間動くタイプ
浴槽の縁や壁にボタンがあり、押すと数分間稼動して自動的に止まるタイプです。
利用者が使いたいときだけ動かせるので、無駄がありません。電気代の節約にもなりますし、誰も入っていない時間に無駄にエアロゾルを発生させずに済みます。
常時運転しているタイプ
営業時間中は止めずに動かし続ける施設もあります。いつでも使える利便性がある一方、ブロワーやポンプの稼働時間が長くなるぶん、電気代と機器の消耗は大きくなります。
どちらが優れているというより、施設の設備構成や運用方針による選択です。ボタン式の浴槽で「泡が出ていない」と感じたら、近くにボタンがないか探してみてください。
利用するときの注意点
ここからは、お客様に知っておいていただきたい安全上のポイントです。
水流で浴槽の底が見えにくい
ジェットバスが作動していると、泡と水流でお湯が白っぽく濁り、浴槽の底が見えなくなります。
段差や手すりの位置が確認しづらくなるため、出入りの際は注意が必要です。とくに初めて入る浴槽では、作動前に底の形状を確認しておくと安心です。
水深が深い浴槽がある
立ったまま入る「立湯」タイプのジェットバスは、水深が1メートルを超えることもあります。
こうした浴槽では、施設が身長制限や年齢制限を設けていることがあります。「身長○cm以上の方」「小学生以下はご利用いただけません」といった掲示を見かけたら、必ず従ってください。足が届かない状態で水流に押されれば、転倒や溺水の危険があります。
制限は施設ごとに定められているので、掲示を確認するのが確実です。
手すりを使う
深い浴槽や段差のある浴槽には、手すりが設置されています。出入りの際は手すりに必ずつかまってください。
浴室は濡れていて滑りやすく、転倒すれば大きなけがにつながります。水流で足元が不安定になるジェットバスでは、なおさらです。
子どもだけで利用させない
泡が出る浴槽は、子どもにとって楽しい場所です。しかし水深があり、底が見えず、水流で体が押される環境は、子どもにとって危険でもあります。
保護者の方が目を離さないこと、年齢制限がある浴槽には入れないことを徹底してください。
体調に不安があるときは避ける
深い浴槽では水圧が体にかかり、立位での入浴は血圧の変動も伴います。体調がすぐれないとき、飲酒後、持病のある方は、無理に利用しないでください。
めまいや立ちくらみが起きやすい状況は、普通の浴槽以上に危険です。のぼせの見分け方は温泉でのぼせるとは?|症状・原因・予防法と湯あたりとの違いをご覧ください。持病がある方は、事前に主治医へ確認しておくと安心です。
顔を近づけすぎない
エアロゾルの話を踏まえると、泡の噴き出し口に顔を近づけるのは避けたほうがよいと言えます。適切に管理された浴槽であれば過度に心配する必要はありませんが、わざわざ至近距離で吸い込む必要もありません。
効果はどこまで言えるのか
ジェットバスについて「血行促進」「マッサージ効果」といった説明を見かけますが、ここは慎重に書きます。
水流が体に当たることで物理的な刺激が加わり、心地よさを感じる方は多いと思います。温まることで血行が促される面もあるでしょう。ただし、これらは療養泉の適応症として定められたものではありません。
温泉の効能は泉質ごとに環境省が定めており、ジェットバスという設備による効果は、その枠組みの外にあります。感じ方にも個人差があります。「気持ちいい」「楽になった気がする」という体感を楽しむ設備だと考えるのが適切です。
療養泉の適応症については温泉の適応症と効能|リウマチ・神経痛に本当に効くのかを現場スタッフが解説をご覧ください。症状の改善を目的とする場合は、医療機関にご相談ください。
現場から見たジェットバス
施設側の視点で言えば、ジェットバスは手がかかる浴槽です。
専用の配管系統があり、ブロワーやポンプといった機器が増え、清掃箇所も増えます。水質検査の回数も多くなり、塩素濃度の維持にも気を使います。電気代もかかります。
それでも設置されているのは、お客様の人気が高いからです。「ジェットがあるから通っている」という方は実際に多く、浴槽の構成を考えるうえで外せない存在になっています。
楽しんでいただく設備であると同時に、法令がもっとも厳しく目を向けている設備でもある——その両面を持っているのがジェットバスです。保健所の立入検査でも確認対象になります。保健所の立入検査|温泉施設は何をチェックされるのかもあわせてどうぞ。
まとめ
ジェットバスには、空気を送り込む気泡式と、水を噴き出す水流式があります。法令上はどちらも「気泡発生装置等」としてまとめて扱われ、エアロゾルを発生させる設備として特別な管理が求められます。
とくに重要なのが、連日使用している浴槽水を使用しないことという規定です。毎日完全に換水していない浴槽水はすべてこれに該当するため、週1回換水の浴槽も対象になります。ただし実際の規制は自治体の条例によるため、自施設の扱いは保健所への確認が必要です。
加えて、水質検査の回数を増やす、残留塩素を保つ、装置内部を清掃・消毒する、空気取入口に土ぼこりが入らないようにする——こうした管理の上に、あの泡は成り立っています。
利用するときは、底が見えにくいこと、水深のある浴槽では身長・年齢制限があること、手すりを使うこと、体調が悪い日は避けること。この4つを押さえておけば安心です。
次にジェットバスに入るとき、その泡が法令と日々の管理に支えられていることを、少しだけ思い出してもらえたらと思います。
参考文献
- 厚生労働省「公衆浴場における衛生等管理要領等について」 https://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0111/tp1106-1.html
- 厚生労働省「公衆浴場における衛生等管理要領等の改正について(令和元年9月19日)」 https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001402024.pdf
- 厚生労働省「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアルについて」 https://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0109/tp0911-1.html
- 厚生労働省「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/legionella/030725-1.html
- 厚生労働省「入浴施設の衛生管理の手引き」 https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001401967.pdf
- 各都道府県・市の公衆浴場法に基づく条例・レジオネラ症防止対策指針(検査回数等は自治体により異なります)









