温浴施設のポンプとは?|循環・給水・薬注・揚湯まで役割別の一覧と、遠心式・多段・定量の構造の違いを解説

温泉施設の裏側

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温浴施設の機械室に入ると、低いうなりが床から伝わってきます。あの音の正体がポンプです。配管とバルブが水の通り道をつくっているのに対して、その水を実際に動かしているのがポンプ。前回の温浴施設のバルブとは?が「道と関所」の話だったとすれば、今回は「原動機」の話になります。

そして温浴施設は、おそらく一般のお客様が想像するよりずっと多くのポンプを抱えています。浴槽の湯を回すもの、水道の水を押し上げるもの、源泉を地下から汲み上げるもの、薬液を一滴ずつ送るもの、ピット階に溜まった水を外へ出すもの。それぞれ目的が違い、構造も違い、止まったときに起きることも違います。

この記事では、温浴施設で使われるポンプを役割別に一つずつ整理し、そのあとで遠心式・多段・水中・定量といった構造の違いを押さえます。普段は見えない機械室の全体像を、できるだけ立体的に掴んでもらえるよう書きました。まずは下の図で、どこに何のポンプがいるのかを眺めてみてください。

そもそもポンプは何をしている機械なのか

ポンプの仕事は、ひとことで言えば「水に力を与えること」です。そしてその力は、二つの量で表されます。

ひとつが揚程(ようてい)です。どれだけの高さまで水を押し上げられるか、言い換えればどれだけの圧力を出せるかを表す数字で、メートルで示されます。もうひとつが吐出量(としゅつりょう)で、1分あたり何リットル送れるかという量の話です。

大事なのは、この二つを同時に最大にはできないということです。ポンプには性能曲線というグラフがあり、たくさん流そうとすれば圧力は下がり、高い圧力を出そうとすれば流れる量は減ります。つまりポンプ選びは「どのくらいの高さまで、どのくらいの量を送りたいのか」という組み合わせを決める作業になります。

そしてもう一つ押さえておきたいのが、配管側の事情です。配管が長い、曲がりが多い、口径が細い、ろ過器やストレーナが入っている——こうした要素はすべて水の流れに抵抗を生みます。ポンプの能力と配管の抵抗が釣り合ったところで、実際の流量が決まります。だからろ過器のろ材が詰まってきたり、集毛器にゴミが溜まったりすれば、ポンプが同じように回っていても流量は落ちます。ポンプの話は、常に配管とセットで考えるものなのです。

温浴施設で使われるポンプ一覧|目的と使う場所

ここからが本題です。役割別に見ていきます。

1給水ポンプ・加圧ポンプ揚水ポンプとも

主な目的水道水を館内の各所へ届け、十分な水圧を確保する
使う場所受水槽のそばのポンプ室。受水槽から屋上の高置水槽へ押し上げる系統
構造・方式多段式の遠心ポンプ。2台以上で交互運転し、インバータで吐出圧を一定に保つ制御も一般的
止まると浴槽にお湯が残っていても、シャワーとカランから先に水が出なくなる

2循環ポンプ・ろ過ポンプ温浴施設の心臓部

主な目的浴槽の湯を循環させ、ろ過・加温・消毒を成立させる
使う場所機械室。「浴槽→吸い込み口→集毛器→ポンプ→ろ過器」の順に置く
構造・方式横形または立形の遠心ポンプ(渦巻ポンプ)。大量を低い揚程で流すため片吸込・太い口径
止まるとろ過も消毒も成立しない。水が動かず塩素も入らない浴槽になり、衛生上もっとも重大

3給湯循環ポンプ返湯ポンプとも

主な目的給湯配管の湯を動かし続ける。すぐ湯が出るようにし、同時に滞留を防ぐ
使う場所貯湯槽のそばと返湯管の末端付近
構造・方式配管の途中に直接挟み込む小型のインライン式遠心ポンプ
止まると蛇口から湯が出るまで時間がかかり、配管内に湯が滞留する

4薬注ポンプ・定量ポンプ

主な目的消毒用の薬液を決まった量ずつ正確に注入する。求められるのは量ではなく正確さ
使う場所薬液タンクのそば。注入口は浴槽水がろ過器に入る直前
構造・方式ダイヤフラム式の定量ポンプ(容積式)。圧力が変動しても流量がぶれにくい
止まると塩素が入らなくなる。数値はすぐには落ちないため、気づくのが遅れやすい

5送水ポンプ・移送ポンプ

主な目的槽に溜まっている水を別の場所へ一方向に送る
使う場所源泉槽から貯湯槽・熱交換器へ、回収槽からろ過系統へ。各槽のそば
構造・方式遠心ポンプが基本。槽に水没させる水中ポンプが選ばれることもある
止まると送り先に湯や水が届かない。源泉槽からの送水が止まれば汲み上げた源泉が使えない

6揚湯ポンプ・深井戸ポンプようとうポンプ

主な目的地下の源泉を地上まで汲み上げる
使う場所源泉井の中。井戸の深さは数十メートルから1000メートル超まで
構造・方式井戸へ吊り下げる水中モーターポンプで、羽根車を重ねた多段構造。エアリフト方式の井戸もある
止まると新しい源泉の補給が止まる。交換は井戸から引き抜く大工事で、予備機へ簡単に切り替えられない

7ジェットポンプ気泡をつくるのはブロワ(送風機)

主な目的浴槽内に強い水流をつくる。浴槽水を吸い込んで勢いよく吹き出す
使う場所浴槽のすぐ裏の機械スペース。循環ろ過とは別にジェット専用で持たせる構成が一般的
構造・方式遠心ポンプ。気泡をつくっているのはポンプではなくブロワで、こちらは水ではなく空気を送る
止まるとジェットが出なくなる。衛生面への影響は小さい

8冷却水ポンプ・冷温水ポンプ

主な目的冷やした水、または温めた水を循環させる
使う場所チラーや空調機の近く。水風呂の水をチラーへ引き込んで戻す系統
構造・方式遠心ポンプ
止まるとチラーが動いていても水風呂が冷えず、水温が水道水の温度に近づいていく

9熱源設備の循環ポンプ一次側ポンプとも

主な目的ボイラーで得た熱を熱交換器まで運ぶ
使う場所ボイラー室。温泉水を直接通さず、清水側の輪を回す系統
構造・方式遠心ポンプ。熱い湯を扱うため耐熱性のある仕様が選ばれる
止まると湯温が維持できなくなる。冬場は浴槽の温度が下がっていく

10排水ポンプ水中ポンプ

主な目的低い場所に溜まった水を外へ出す
使う場所排水ピットや排水槽の底。浴室の下のピット階
構造・方式水没させて使う水中ポンプ。水位を検知するフロートスイッチと組み合わせて自動運転
止まるとピット階が浸水し、ほかのポンプのモーターや電気設備まで水に浸かる

そのほかのポンプ施設の条件による

消火ポンプスプリンクラーや屋内消火栓に圧力を供給する。消防設備として法令に基づく定期点検の対象
井水ポンプ水道水ではなく井戸水を使う施設で、水風呂や雑用水のために井水を汲み上げる
汚水・雑排水ポンプトイレや厨房からの排水を排水槽から汲み上げる。浴槽系統とは別の系統
ドレンポンプ空調機の結露水を排出する小型のポンプ
仮設ポンプ配管洗浄のときに薬剤を循環させるため、一時的に持ち込むもの

詳しく一つずつ見ていきます。

① 給水ポンプ・加圧ポンプ・揚水ポンプ

目的は、建物の中に水を届けることと、十分な水圧を確保することです。

温浴施設は水の使用量が非常に多く、水道本管の圧力だけでは上階まで水が届かないことがあります。そこで水道水をいったん受水槽に受け、そこからポンプで各所へ送ります。受水槽から屋上の高置水槽へ押し上げるものを揚水ポンプ、配管に直接圧力をかけて供給するものを加圧給水ポンプと呼びます。

使う場所は、受水槽のそばのポンプ室です。ここが止まると、浴槽のお湯が残っていてもシャワーとカランから先に水が出なくなります。断水のときに真っ先に確認するのが受水槽の残量とこのポンプの運転状況で、そのあたりは温泉施設で断水が起きたらどうなる?でも書いています。受水槽と貯湯槽の違いは温泉施設の貯湯槽と受水槽とは?を参照してください。

方式は、必要な揚程が大きいので多段式の遠心ポンプが使われることが多く、たいてい2台以上で構成されて交互に運転します。1台が壊れても営業を続けられるようにするためです。インバータで回転数を変え、使用量に応じて吐出圧を一定に保つ制御も一般的です。

② 循環ポンプ・ろ過ポンプ

温浴施設でもっとも重要なポンプが、これです。

目的は、浴槽の湯を循環させて、ろ過・加温・消毒を成立させることです。浴槽の吸い込み口から湯を吸い出し、集毛器でゴミを取り、ろ過器で汚れをろ過し、熱交換器で温度を整え、消毒薬を加えて、吐き出し口から浴槽へ戻す。この一連の流れを押し出しているのが循環ポンプです。

使う場所は、機械室のろ過器のすぐ手前。配置は浴槽 → 吸い込み口 → 集毛器 → 循環ポンプ → ろ過器という順番が基本で、ポンプの前に集毛器を置くのは、髪の毛や大きなゴミが羽根車に絡むのを防ぐためです。集毛器の役割については温泉の集毛器(ヘアキャッチャー)とは?、ろ過と逆洗のしくみは温泉のろ過と逆洗って何?にまとめています。

このポンプは営業中ほぼ止まりません。そして止まった瞬間に、ろ過も消毒も成立しなくなります。水が動かず塩素も入らない浴槽は、レジオネラ属菌にとって条件のよい環境になります。だから停電のときに最初に問題になるのがここで、集毛器の掃除で一時的に停止したあとの再運転を忘れることが、現場でもっとも怖いミスのひとつです。循環式のしくみ全体は循環式温泉とは?で解説しています。

方式は横形または立形の遠心ポンプ(渦巻ポンプ)が主流です。大量の水を比較的低い揚程で流す用途なので、羽根車1枚の片吸込タイプで足りることが多く、口径は太めになります。

③ 給湯循環ポンプ(返湯ポンプ)

これは地味ですが、衛生上とても重要なポンプです。

目的は、給湯配管の中のお湯を常に動かし続けることです。貯湯槽から各所の蛇口へ向かう配管と、戻ってくる返湯管をつないで輪にし、そこをポンプで回します。

効果は二つあります。ひとつは、蛇口をひねった瞬間に熱い湯が出ること。配管の中の湯が冷えて止まっていると、最初に冷たい水が出てきてしまいます。もうひとつが衛生面です。厚生労働省の「レジオネラ症を予防するために必要な措置に関する技術上の指針」の給湯設備の章には、こう書かれています。

「湯水が貯湯槽や給湯のための配管内で滞留することによってレジオネラ属菌をはじめとする微生物が繁殖しやすくなる。」

そして同じ章で、滞留を防止するための措置を講ずることが必要であるとされ、構造設備上の措置として、滞留水を排水できるよう貯湯槽等に排水弁を設置することや、循環式の中央式給湯設備に流量弁等を設けることが示されています。給湯循環ポンプは、この「滞留させない」を機械で実現している装置だと言えます。あわせて、貯湯槽内の湯温を高く保つことも同じ指針で求められています。

使う場所は、貯湯槽のそばと返湯管の末端付近です。方式は小型のインライン式遠心ポンプが一般的で、配管の途中に直接取り付ける形になります。レジオネラ対策との関係は温泉とレジオネラ菌、配管内にできる膜については温泉のバイオフィルムとは?も参考になります。

④ 薬注ポンプ・定量ポンプ

目的は、消毒用の薬液を決まった量ずつ、確実に注入することです。

次亜塩素酸ナトリウムなどの薬液タンクから薬液を吸い上げ、循環配管へ少量ずつ押し込みます。ここで求められるのは「量」ではなく「正確さ」です。多すぎれば臭気や刺激の原因になり、少なければ消毒が成立しない。だから、ほかのポンプとはまったく違う構造のものが使われます。

注入する位置も決められています。指針には、ろ過器を設置している浴槽では、塩素系薬剤の注入口または投入口は浴槽水がろ過器に入る直前に設置し、ろ過器内の生物膜の生成を抑制することとされています。ろ過器を通る前の湯に薬液を入れることで、ろ過器そのものも消毒するという設計です。

使う場所は、薬液タンクのそばと循環配管の合流点。方式はダイヤフラム式の定量ポンプが主流で、詳しくは後述します。薬注装置の全体像とトラブルは温泉の薬注装置と薬液タンクとは?、塩素が上がらないときの切り分けは温泉施設で塩素が上がらない!にまとめています。

⑤ 送水ポンプ・移送ポンプ

目的は、ある場所に溜まっている水を、別の場所へ移すことです。循環のように輪を描くのではなく、A地点からB地点へ一方向に送るのがこの仲間です。

温浴施設では、源泉を溜めた槽から貯湯槽や熱交換器へ送る、浴槽からあふれた湯を受けるオーバーフロー(回収槽)からろ過系統へ戻す、水風呂用の井水を槽から送る、といった場面で使われます。なおオーバーフローについては、指針でオーバーフローの水を浴用に供することは避けることとされており、扱いに注意が必要な設備です。

⑥ 揚湯ポンプ・深井戸ポンプ

源泉を持つ施設にしかない、しかしその施設の根幹を支えるポンプです。

目的は、地下の源泉を地上まで汲み上げることです。井戸の深さは施設によって大きく異なり、数十メートルから1000メートルを超えるものまであります。深くなるほど必要な揚程は大きくなります。

使う場所は源泉井の中。地上に据え付けるのではなく、ポンプ本体とモーターを一体にして井戸の中へ吊り下げる水中モーターポンプが一般的で、羽根車を何段も重ねた多段構造になっています。空気を送り込んで湯を持ち上げるエアリフト方式が使われる井戸もあります。

この系統で一定時間あたりに汲み上げられる量が揚湯量で、施設が使える湯の上限を決める数字です。経年でポンプや井戸の能力が落ちれば揚湯量も下がり、加水や循環に頼る割合が増えていきます。温泉成分が濃い源泉ではスケールが付着して流路が狭まり、ガスを含む源泉ではガスの噛み込みが起きることもあります。析出物については温泉のスケールとは?で詳しく書いています。

そして揚湯ポンプの交換は、井戸から引き抜いて入れ替える大工事になります。簡単に予備機へ切り替えられる設備ではないため、日常点検での兆候の把握がとくに重要なポンプです。

⑦ ジェットポンプ・気泡発生装置まわり

目的は、浴槽内に水流や気泡をつくることです。ここは「水を回すもの」と「空気を送るもの」が混在するので、整理しておきます。

ジェットバスの強い水流をつくるのは、浴槽水を吸い込んで勢いよく吹き出すためのポンプです。循環ろ過の系統とは別に、ジェット専用のポンプを持たせる構成が一般的です。一方で、気泡をつくっているのはポンプではなくブロワ(送風機)で、こちらは水ではなく空気を送っています。名前が似ているので混同されやすいところです。

使う場所は浴槽のすぐ裏の機械スペース。なお気泡発生装置については、指針で空気取入口から土ぼこりが入らないような構造とすることが定められており、衛生等管理要領では連日使用している浴槽水を用いる構造でないこととされています。設備としては単純に見えて、ルールの多い部分です。

⑧ 冷却水ポンプ・冷温水ポンプ

目的は、冷やした水、または温めた水を循環させることです。

水風呂を冷やすチラーは、それ自体が水を冷やす機械ですが、水風呂の水をチラーへ引き込み、冷やして戻す流れをつくるのはポンプの役目です。空調設備でも、冷温水を建物内の空調機へ回すためのポンプが働いています。

使う場所はチラーや空調機の近く。方式は遠心ポンプが基本です。水風呂の冷却のしくみは水風呂のチラーとは?で解説しているので、あわせてどうぞ。

⑨ 熱源設備の循環ポンプ

目的は、ボイラーで得た熱を熱交換器まで運ぶことです。

温泉水を直接ボイラーに通すと、成分で缶体や配管を傷めてしまいます。そこでボイラー側では清水を温め、その湯を熱交換器まで循環させて、薄い金属板越しに温泉側へ熱だけを渡します。この清水側の輪を回しているのが熱源の循環ポンプで、一次側ポンプと呼ばれることもあります。

使う場所はボイラー室。熱い湯を扱うので、耐熱性のある仕様が選ばれます。熱交換器の話は温泉の熱交換器とは?、お湯を温めるしくみ全体は温泉のお湯はどうやって温めている?にまとめています。

⑩ 排水ポンプ(水中ポンプ)

目的は、低い場所に溜まった水を外へ出すことです。

浴室の下には配管や設備が通るピット階があり、ここは構造上どうしても水が溜まります。逆洗排水、浴槽の換水排水、漏水、結露。これらを自然流下で排水できない位置にある場合、排水ピットに溜めてポンプで汲み上げることになります。

使う場所は排水ピットや排水槽の底。方式は水没させて使う水中ポンプで、水位を検知するフロートスイッチと組み合わせて自動運転します。このポンプが止まるとピット階が浸水し、ほかのポンプのモーターや電気設備まで水に浸かるという連鎖が起きます。ピット階の環境は温泉施設のピット階とは?で紹介しているとおり、狭く暗く湿った点検区画です。

そのほかのポンプ

上記以外にも、施設の条件によっていくつかのポンプが入ります。

消火ポンプは、スプリンクラーや屋内消火栓に圧力を供給する消防設備としてのポンプで、法令に基づく定期点検の対象です。井水ポンプは、水道水ではなく井戸水を使う施設で、水風呂や雑用水のために井水を汲み上げます。汚水・雑排水ポンプは、トイレや厨房からの排水を排水槽から汲み上げるもので、浴槽系統とは別の系統です。ドレンポンプは空調機の結露水を排出する小型のポンプ。このほか、配管洗浄のときに薬剤を循環させるための仮設ポンプを持ち込むこともあります。配管洗浄については温泉施設の配管洗浄とは?をご覧ください。

構造・方式の違い|なぜ同じポンプを使い回せないのか

ここまで10種類以上のポンプを挙げてきましたが、これらは単に「置き場所が違う同じ機械」ではありません。求められる性能が違うので、構造そのものが違います。

渦巻ポンプ・多段ポンプ・水中ポンプは、羽根車の遠心力で水を送る「遠心ポンプ」の仲間です。定量ポンプだけは、部屋の容積を押し縮めて送る「容積式」で、仕組みがまったく違います。

渦巻ポンプ(遠心ポンプの代表)

遠心ポンプ 吐出し 羽根車(インペラ) 渦巻室(ボリュート) 中心の吸込口から入り、外へはじき出される

遠心ポンプは、羽根車を回して遠心力で水を外側へはじき出すポンプの総称。渦巻ポンプはその代表
羽根車の外側の渦巻室で流れを集め、勢い(速さ)を圧力に変えて送り出す
起動前に中を水で満たす「呼び水」が必要(自吸式を除く)。空気をかんだままでは水を送れない
吐出し弁を閉めたままの長時間運転(締切運転)は、中の水が温まって故障の原因になる

よく使われる場所:ろ過器の循環ポンプ、給湯の循環ポンプ

スライダーやボタンを動かすと、動きと状態が変わります。模式図のため、実際の構造や寸法とは異なります。

遠心ポンプ・渦巻ポンプ

もっとも広く使われているのが遠心ポンプです。ケーシングの中で羽根車(インペラ)を高速で回し、遠心力で水を外周へ投げ飛ばして圧力と流れをつくります。その外周の流路がカタツムリの殻のような渦巻き形になっているものを渦巻ポンプと呼び、温浴施設の循環・送水・冷却水はほとんどこの形式です。

長所は、大量の水を安定して連続で流せること、構造が比較的単純で扱いやすいこと、流量を絞って調整しやすいことです。短所は、羽根車が水で満たされていないと水を送り出せない点にあります。つまり空気を吸い込むと機能しなくなる。ここが後述するトラブルの根っこになります。

羽根車の片側から水を吸い込むものを片吸込、両側から吸い込むものを両吸込と呼び、大流量が必要な場合には両吸込が選ばれます。

多段ポンプ

遠心ポンプの羽根車を、1枚ではなく何枚も直列に並べたものが多段ポンプです。1段目で上がった圧力を2段目がさらに押し上げ、3段目がまた押し上げる。段を重ねるほど高い揚程が得られます。

使われるのは、高い圧力が必要な場所です。受水槽から上階まで水を押し上げる加圧給水、そして深井戸からの揚湯。揚程が足りない場所に単段のポンプを入れても、水は目的の高さまで届きません。「流量は足りているのに上階でシャワーの出が悪い」という症状は、量ではなく圧力の問題である可能性があります。

水中ポンプ

モーターごと水の中に入れて使う形式です。水没前提で防水構造になっており、冷却も周囲の水で行います。

長所は、水面より上に据え付けるポンプと違って吸い上げる必要がないこと。遠心ポンプを水面より上に置く場合、運転前にポンプ内を水で満たす呼び水が必要になったり、吸い上げられる高さに限界があったりします。水中ポンプはその問題を構造で解決しています。

使われるのは、排水ピット、排水槽、そして深井戸です。深井戸ポンプは「水中ポンプであり、かつ多段ポンプ」という組み合わせになります。短所は、点検や修理のたびに水から引き上げる必要があること。井戸の中のものは、それが大仕事になります。

定量ポンプ(容積式)

ここまでの遠心ポンプとは、原理が根本的に違います。

遠心ポンプは羽根車で水に勢いをつける方式なので、配管側の圧力が変われば流れる量も変わります。一方、定量ポンプは決まった容積を機械的に押し出す方式です。ダイヤフラム(ゴムの膜)やプランジャ(棒)を往復させ、一回の動作で押し出す量が決まっている。これを容積式と呼びます。

この構造だと、押し出す回数と一回あたりの量(ストローク)を設定すれば、注入量を数字で決められます。配管の圧力が多少変動しても流量が大きくぶれないので、薬液の注入にはこの方式が不可欠です。薬液に触れる部分を樹脂やセラミックにして、次亜塩素酸ナトリウムのような腐食性のある薬液に耐えられるようにしてあります。

短所は、脈動があること(連続した流れではなく、ドッ、ドッと押し出される)と、大量の水を送るのには向かないことです。薬注のように「少量を正確に」という場面に特化した機械だと考えてください。

そのほかの分類軸

形式の違いは、ほかにもいくつかの軸があります。

自吸式は、ポンプ内に水を保持する構造を持ち、水面より上にあっても自力で吸い上げを始められるタイプです。インライン式は配管の途中に直接挟み込む小型のもので、給湯循環のような用途に向きます。据え付け方では、軸が垂直の立形と水平の横形があり、機械室の広さや吸込条件で選ばれます。そして駆動側では、回転数を変えられるインバータ制御が普及しており、使用量に応じて必要な分だけ回すことで省エネと機器の寿命延長につながります。

整理すると、選定は「揚程」で決まる

ここまでをまとめると、こう言えます。大量の水を低い揚程で流すなら単段の遠心ポンプ、高い揚程が必要なら多段、水没させる必要があるなら水中、少量を正確に送るなら定量。温浴施設にポンプの種類が多いのは、送るものと送り先の条件がそれぞれ違うからです。

ポンプにまつわるトラブル

構造が分かると、起きるトラブルの理由も見えてきます。

空気を吸う(エア噛み・空運転)

遠心ポンプにとって最悪の状態がこれです。ポンプ内が水ではなく空気で満たされると、羽根車が空回りして水を送れなくなります。しかも軸を封じる部分は水で冷却・潤滑されているため、水がないまま回し続けると発熱して焼き付きます。

原因は、浴槽の水位が下がって吸い込み口から空気を吸った、吸込側の配管に漏れがあって空気が入った、集毛器の蓋のパッキンが劣化して空気を引き込んだ、換水後の呼び水が不十分だった、など。吸込側は押す側ではなく引く側なので、わずかな隙間からでも空気が入ります。水位の管理が設備の保護に直結する理由がここにあり、温泉の水位計とは?で扱った水位検知の話とつながります。

キャビテーション

吸込側の圧力が下がりすぎると、水が常温でも気化して気泡ができます。その気泡が圧力の高いところで潰れるときの衝撃が、羽根車や配管の内面を少しずつ削っていく現象がキャビテーションです。

異常な運転音や振動として現れ、放置すると羽根車が虫食い状に侵食されて性能が落ちます。吸込側が詰まっている、吸い上げる高さが無理をしている、湯温が高すぎる、といった条件で起こりやすくなります。温泉の吸い込み口と吐き出し口とは?でも取り上げているテーマです。

詰まりによる流量低下

集毛器にゴミが溜まる、ろ過器のろ材が目詰まりする、ストレーナが塞がる。どれもポンプ自体は正常なのに流量が落ちる症状を生みます。ろ過圧の上昇や吐出圧の変化で気づける部分で、逆洗や清掃の頻度を見直すサインでもあります。

軸封からの漏れ

回転する軸がケーシングを貫通する部分には、水を漏らさないための封じがあります。グランドパッキンという詰め物を使う方式と、メカニカルシールという部品で封じる方式が主流です。

どちらも消耗品で、劣化すると水が滴ります。少量の滴りでも機械室の床を濡らし、転倒のリスクになりますし、放置すれば漏れが増えて軸も傷みます。床の水を見つけたら、拭いて終わりにせず発生源を特定する必要があります。配管からの漏水との切り分けは温泉施設の配管から水漏れ!も参考にしてください。

締切運転・バルブの閉め忘れ

吐出側のバルブを閉じたままポンプを回すと、水が流れないまま内部でかき回され続けて温度が上がります。これを締切運転と呼び、短時間でも機器を傷めます。吸込側のバルブを閉じたまま運転するのは、空運転と同じでさらに危険です。

これは機械の故障ではなく手順の問題で、作業前に閉めたバルブを作業後に開け戻すという、バルブ記事で書いた話とまったく同じ構図です。ポンプの事故の多くは、ポンプ以外の原因で起きます。

スケール・異物・腐食

温泉成分が濃い源泉では、羽根車や流路にスケールが付着してバランスが崩れ、振動の原因になります。酸性泉や塩化物泉では金属の腐食が進み、材質選定が設計上の論点になります。そして髪の毛やアクセサリーのような異物が羽根車に絡むこともあります。これは集毛器が前段で守っている部分です。

予備機と交互運転

重要なポンプは2台構成にして、自動で交互に運転する仕組みが一般的です。片方だけを使い続けると偏って消耗しますし、もう1台が長期間止まっていると固着するためです。予備機があるからといって、片方が止まっていることに気づかないままでいいわけではありません。残った1台が故障した時点で設備が止まるので、交互運転が正常に切り替わっているかも点検項目になります。

日々の点検で見ているもの

現場では、ポンプについて次のようなところを見ています。

  • 音と振動。いつもと違ううなり、ガラガラという音、床に伝わる振動の変化は、キャビテーションや軸の傷み、異物の兆候です。慣れると機械室に入った瞬間に「今日は音が違う」と気づけるようになります。
  • 吐出圧と流量。圧力計の指針がいつもの位置にあるか。ろ過圧が上がっていれば詰まりの進行です。
  • 電流値。負荷の変化は電流に現れます。高すぎれば過負荷、低すぎれば水を送れていない可能性があります。
  • 温度。ケーシングやモーターが異常に熱くなっていないか。手で軽く触れて確かめます。
  • 漏れ。軸封部の滴り、フランジ部のにじみ、床の水たまり。

そして運転状態そのもの。動いているはずのポンプが動いているか、交互運転が切り替わっているか、手動に切り替えたまま戻し忘れていないか。制御盤の表示だけを信じないという点は、電動弁の話と同じです。

ポンプが止まると何が起きるか

最後に、系統ごとに整理しておきます。これを把握しておくと、トラブルのときの優先順位が決まります。

循環ろ過ポンプが止まれば、ろ過と消毒が成立しなくなります。衛生上もっとも重大で、復旧の見込みが立たなければ浴槽の使用を止める判断が必要になります。残留塩素の管理については温泉施設の水質管理は毎日何をしている?をご覧ください。

給水・加圧ポンプが止まれば、シャワーとカランが使えません。浴槽の湯は残っていても、体を洗えなければ営業は成り立ちません。

薬注ポンプが止まれば、塩素が入らなくなります。数値はすぐには落ちないので気づくのが遅れやすく、だからこそ残留塩素の測定が日々の業務として組まれています。

揚湯ポンプが止まれば、源泉が入ってこなくなります。浴槽の湯は循環で維持できても、新しい源泉の補給が止まります。

給湯循環ポンプが止まれば、蛇口から湯が出るまで時間がかかるようになり、配管内に湯が滞留します。すぐに営業は止まりませんが、衛生上は放置できません。

熱源の循環ポンプが止まれば、温度が維持できなくなります。冬場は浴槽の温度が下がっていきます。

排水ポンプが止まれば、ピット階が浸水します。そして浸水はほかのポンプと電気設備を道連れにします。

まとめ|ポンプの数は、系統の数

温浴施設のポンプを並べてみると、その数は系統の数とほぼ一致します。浴槽を回す循環ろ過、水を届ける給水・加圧、湯を動かし続ける給湯循環、薬液を正確に送る薬注、槽から槽へ移す送水、源泉を汲み上げる揚湯、水流をつくるジェット、冷やすための冷却水、熱を運ぶ熱源循環、水を外へ出す排水。それぞれに目的があり、止まったときに失われるものが違います。

そして構造の違いは、求められる条件から決まります。大量を低い揚程で流すなら単段の遠心、高い揚程なら多段、水没させるなら水中、少量を正確になら定量。種類が多いのは複雑だからではなく、仕事がそれぞれ違うからです。

機械室の低いうなりは、浴槽の湯がいま循環していること、シャワーに水圧がかかっていること、塩素が注がれていることの音です。その音が変わったことに気づけるかどうかが、設備管理の腕の見せどころだと思っています。設備全体のしくみは温泉施設の設備のしくみまとめからたどれます。

参考文献

ひねこじた 温泉

温浴施設で5年以上働く現役スタッフ。水質や塩素の管理、ろ過設備の運転など、お湯を支える仕事をしています。現場で身につけた知識をもとに、温泉の仕組みや困りごとを解説しています。

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