温泉の膨張タンクとは?|温めた水の圧力から配管と熱交換器を守る仕組み

温泉施設の裏側

本記事にはアフィリエイト広告(PR)を含む場合があります。

温泉施設の設備には、ボイラーやろ過器のほかに、用途の分かりにくいタンクがいくつも並んでいます。そのひとつが「膨張タンク」です。

名前だけ聞くと地味な設備ですが、これがなければ配管も熱交換器も長くはもちません。水は温めると膨らむ(体積が増える)——この当たり前の現象を、密閉された配管の中で放置すると、設備を壊すほどの力になるからです。

この記事では、温浴施設で働く現場スタッフの視点から、膨張タンクが何をしている設備なのか、なぜ必要なのか、そして温泉ならではの事情までを解説します。貯湯槽と混同されやすい設備でもあるので、その違いにも触れていきます。

水は温めると膨らむ

すべての出発点はここです。

水は温度が上がると体積が増えます。やかんを火にかけていて吹きこぼれるのも、この膨張が関わっています。増えた分の水を、設備の世界では「膨張水」と呼びます。

「わずか数パーセント」が大問題になる

水の膨張率は、温度が数十度上がってもせいぜい数パーセント程度です。数字だけ見ると小さく感じます。

ところが温浴施設の配管系に入っている水の量は、桁が違います。仮に10トンの水が入っているとして、そのうちの3パーセントが膨らめば、300リットル分の行き場のない水が生まれることになります。ドラム缶1本半ぶんです。

そして、配管の内容積は変わりません。入れ物の大きさが変わらないのに中身が増えようとすれば、どうなるか。答えは圧力の上昇です。

逃げ場がないと、どこかが壊れる

密閉された配管系で圧力が上がり続けると、その力はいちばん弱いところに集中します。

配管の継手、バルブ、ポンプのシール、そして熱交換器。どれも高い圧力を想定して作られてはいますが、限界を超えれば漏れが生じ、最悪の場合は破損します。

機械室での漏水は、電気設備の水没や営業停止に直結します。温泉施設の配管から水漏れ!|原因・発見方法・対応を現場スタッフが解説でも触れているとおり、初期対応の遅れが被害を大きくします。

この「逃げ場」を用意してやるのが、膨張タンクの役割です。

膨張タンクの役割

膨張タンクは、温度変化で生じる水の膨張と収縮を吸収して、配管系の圧力を安全な範囲に保つための設備です。

膨らんだら受け止め、縮んだら戻す

水温が上がって体積が増えると、余った水が膨張タンクへ流れ込みます。これで配管内の圧力上昇が抑えられます。

逆に、運転を止めて水温が下がると、今度は体積が減ります。このとき膨張タンクは、受け止めていた水を配管側へ押し戻します。

収縮側も重要で、水が縮んだまま補われないと配管内が負圧になります。負圧はポンプでのキャビテーション(気泡の発生と崩壊による損傷)を招く要因にもなります。この現象については温泉の吸い込み口と吐き出し口とは?|吸込事故とキャビテーションの危険性で解説しています。

膨張タンクは、配管系にとってのクッションだと考えると分かりやすいと思います。

開放式と密閉式

膨張タンクには大きく2つの方式があります。

開放式膨張タンク

系統のいちばん高い場所に置き、水面を大気に開く

膨張タンク ボイラー 貯湯槽 給湯へ 給水 1 2 3 4 5 6
1通気管:タンクの中を大気に開放する
2補給水:ボールタップで水位を保つ
3オーバーフロー管:あふれた水を外へ逃がす
4膨張管:温まって膨らんだ水の通り道。弁を付けてはいけない
5貯湯槽:中の加熱コイルでボイラーの熱だけを受け取る
6逃し弁:貯湯槽の湯が膨らんだ分を逃がす

密閉式膨張タンク

ボイラーの近くに置け、水が空気に触れない

ボイラー 貯湯槽 給湯へ 給水 1 2 3 4 5 6
1封入ガス(窒素・空気):縮んでクッションになる
2ダイヤフラム:ガスと水を仕切るゴムの膜
3水室:温まって膨らんだ水を受け入れる
4安全弁:ボイラー側の圧力が上がりすぎたときに逃がす
5貯湯槽:中の加熱コイルでボイラーの熱だけを受け取る
6逃し弁:貯湯槽の湯が膨らんだ分を逃がす
膨張タンクが受け持つのは、ボイラーと加熱コイルを回る水だけです。この水は同じものがぐるぐる回り続け、貯湯槽の湯とは混ざりません。貯湯槽の湯も温まれば膨らむので、そちらは逃し弁などで別に逃がしています。

赤い矢印=ボイラーからの温水、青い矢印=ボイラーへの戻り。模式図のため、実際の配管経路や機器の配置とは異なります。

開放式膨張タンク

上部が大気に開放されたタンクです。膨張した水はそのままタンクに溜まり、水位が上下することで圧力を逃がします。

構造が単純で分かりやすい一方、制約もあります。大気圧を利用するため、配管系のいちばん高い位置より上に設置する必要があります。 屋上や最上階に置かれることが多いのはこのためです。

また、水が常に空気に触れるため、酸素が溶け込んで配管や機器の腐食を早める要因になります。ほこりや異物が入る可能性もあり、寒冷地では凍結対策も必要です。

密閉式膨張タンク

現在の主流がこちらです。密閉された容器の内部に、ダイヤフラムやブラダと呼ばれるゴム製の隔膜が入っています。

タンク内は隔膜で水側と気体側に分かれていて、膨張水が入ってくると隔膜が変形して気体側を圧縮します。この気体がバネのように働いて圧力を吸収する仕組みです。水が縮むときは、気体側が隔膜を押し戻して水を配管へ返します。

密閉式の利点は、設置場所の自由度が高いこと、そして水が空気に触れないため酸化による腐食を抑えられることです。機械室に置けるので凍結の心配も減ります。

逃がし弁だけで済ませる方式もあるが

膨張タンクを設けず、圧力が上がったら逃がし弁から水を捨てるという方法もあります。

ただ、これは温めたお湯をそのまま排水することになります。燃料費をかけて沸かした湯を捨てるわけですから、エネルギーの無駄が大きい。ボイラーの発停が多いシステムでは、そのたびに湯を捨て続けることになります。

そのため現在は、膨張タンクで吸収し、逃がし弁はそれでも圧力が上がりすぎたときの最終手段として備える、という組み合わせが一般的です。膨張タンクと逃がし弁は、セットで考える設備だと言えます。

貯湯槽とは別物です

ここは混同されやすいところなので、はっきり分けておきます。

貯湯槽は、加熱したお湯を「ためておく」ためのタンクです。大量のお湯を同時に使う施設で、必要なときに供給できるよう備蓄しておく役割があります。衛生管理上、一定の温度を保つことが求められる設備でもあります。詳しくは温泉施設の貯湯槽と受水槽とは?をご覧ください。

対して膨張タンクは、お湯をためるための設備ではありません。膨張した分を一時的に受け止めて圧力を逃がす、いわば安全装置です。

どちらもタンクの形をしていますが、目的がまったく違います。設備全体の中での位置づけは温泉設備の仕組み完全ガイドで確認できます。

温泉施設ならではの事情

ここからが、一般のビル設備とは違う部分です。

温泉水を直接通すかどうか

温泉には、金属を腐食させる成分やスケールになる成分が含まれています。これを配管や機器に直接通せば、設備の寿命は確実に縮みます。

そのため多くの施設では、熱交換器を使って源泉側と設備側を分離し、熱だけを受け渡す構成をとっています。膨張タンクがどちら側に付くかによって、想定すべき負荷はまったく変わります。

スケールと腐食の影響

温泉成分が触れる側に設置されている場合、タンク内部や接続配管にスケールが付着することがあります。温泉のスケールとは?|白い塊の正体と除去方法を現場スタッフが解説で解説しているとおり、これは温泉施設の宿命のような問題です。

密閉式のブラダやダイヤフラムはゴム製で、そもそも消耗品です。温泉成分や高温にさらされる環境では、劣化が早まる可能性も考えておく必要があります。

圧力容器としての扱い

もうひとつ、押さえておきたい法令の話です。

密閉式膨張タンクは、設置条件によって第二種圧力容器に該当することがあります。内部液体の最高使用温度が沸点を超えず、タンクの総容量が40リットル以上で、最高使用圧力が0.2MPa以上——といった条件に当てはまる場合です。

該当すれば、労働安全衛生法に基づく定期自主検査などの対象になります。自施設の膨張タンクがどの区分にあたるのかは、仕様書や設置時の書類で確認しておくべき部分です。ボイラーまわりの法令とあわせて、管理者が把握しておきたい知識だと思います。

点検で見ているところ

膨張タンクは、動く部品が少なく目立たない設備です。だからこそ、不具合に気づきにくいという面もあります。

封入圧力

密閉式では、気体側にあらかじめ圧力をかけてあります。この圧力が抜けていると、膨張水を吸収する能力が落ちます。定期的な確認が必要な項目です。

隔膜の破損

ブラダやダイヤフラムが破れると、膨張タンクは機能しなくなります。気体側に水が回り込み、タンクが水で満たされた状態になってしまうためです。

タンクを軽く叩いたときの音が、上下で変わらず詰まったような感触になっていれば、破損が疑われます。ゴム部品は交換できるものが多いので、異常に気づいたら早めに対応します。

圧力計の動き

運転中と停止中で、系統の圧力が想定どおりに変動しているか。加熱時に圧力が跳ね上がる、逃がし弁が頻繁に作動する——こうした症状は、膨張タンクが機能していないサインである可能性があります。

漏れと腐食

接続部からのにじみ、タンク外面のサビ、周囲の水跡。機械室は湿度が高く、腐食が進みやすい環境です。

膨張タンクが機能しないとどうなるか

最後に、この設備が働かなくなった場合の話です。

まず、加熱のたびに系統の圧力が上がります。逃がし弁が設定圧に達して作動すれば、そのたびに温めた湯が捨てられ、燃料費が無駄になります。「なぜか水道代と燃料費が増えている」という形で、先に数字に表れることもあります。

そして圧力の上下が繰り返されれば、配管の継手やパッキンに負担が蓄積し、やがて漏水につながります。熱交換器のような高価な機器が傷めば、修理費用は膨張タンクの比ではありません。

地味な設備ですが、壊れたときに効いてくるのは他の機器の寿命です。膨張タンクの点検は、設備全体を守るための投資だと考えるのが正しいと思います。

まとめ

水は温めると膨らみます。膨張率そのものは数パーセントでも、施設の配管に入っている水量を考えれば、行き場のない水はかなりの量になります。そして配管の容積は変わらないため、その分が圧力として現れます。

膨張タンクは、この膨張水を受け止め、冷えて縮むときには押し戻すことで、配管系の圧力を安定させる設備です。大気に開放された開放式と、内部の隔膜で吸収する密閉式があり、現在は設置の自由度と腐食対策の面から密閉式が主流になっています。

温浴施設では、温泉成分による腐食やスケール、そして圧力容器としての法令上の扱いなど、一般のビル設備にはない検討事項があります。封入圧力や隔膜の状態を定期的に確認しておくことが、配管や熱交換器といった他の機器を守ることにつながります。

お客様が湯船で温まっているその裏で、温められた水の力を静かに受け止めている——膨張タンクは、そういう役割の設備です。

参考文献

ひねこじた 温泉

温浴施設で5年以上働く現役スタッフ。水質や塩素の管理、ろ過設備の運転など、お湯を支える仕事をしています。現場で身につけた知識をもとに、温泉の仕組みや困りごとを解説しています。

ひねこじた 温泉をフォローする
タイトルとURLをコピーしました