温泉の「レジオネラ菌」って何が危険?|感染経路と予防対策

温泉深掘り

温泉施設で働いていると、「レジオネラ菌」という言葉を日常的に耳にします。衛生管理の研修でも必ず出てくる重要なテーマです。

しかし、一般の利用者にとっては「聞いたことはあるけど、実際どのくらい危険なのかよくわからない」という存在かもしれません。今回は、温泉におけるレジオネラ菌の危険性と、現場で行われている対策について解説します。

レジオネラ菌とは何か

レジオネラ菌は、正式には「レジオネラ属菌」と呼ばれる細菌の総称です。自然界の土壌や水の中に広く存在し、特に20〜50℃程度の温かい水環境で増殖しやすい特徴があります。

温泉やお風呂、循環式浴槽、給湯設備、冷却塔など、人工的な水設備は格好の繁殖場所になります。

なぜ温泉で問題になるのか

温泉は次の条件が揃っているため、レジオネラ菌が増殖しやすい環境です。

  • 適温: 36〜42℃程度の温度帯
  • 栄養源: 入浴者の皮脂や垢、配管内の生物膜(バイオフィルム)
  • 循環: 同じお湯を繰り返し使う循環式では特にリスクが高い

適切な管理を怠ると、数日で危険なレベルまで菌が増殖することもあります。

レジオネラ症の症状と危険性

レジオネラ菌に感染すると、主に2つのタイプの病気を引き起こします。

①レジオネラ肺炎

最も重症なタイプで、感染後2〜10日の潜伏期間を経て発症します。

主な症状:

  • 高熱(38〜40℃)
  • 咳、痰
  • 呼吸困難
  • 全身の倦怠感
  • 筋肉痛
  • 意識障害(重症例)

適切な治療を受けないと、致死率は15〜30%にも達すると言われています。特に高齢者、喫煙者、免疫力の低下した人は重症化しやすく、死亡リスクが高まります。

②ポンティアック熱

比較的軽症なタイプで、感染後1〜2日で発症します。

主な症状:

  • 発熱
  • 頭痛
  • 筋肉痛
  • 倦怠感

通常は2〜5日で自然回復しますが、インフルエンザに似た症状のため、レジオネラ症と気づかれないこともあります。

なぜ危険なのか

レジオネラ症の恐ろしさは、次の点にあります。

①初期症状が風邪やインフルエンザに似ている
そのため診断が遅れ、治療開始が遅くなることがあります。

②急激に悪化する
肺炎型は数日で呼吸困難に陥り、人工呼吸器が必要になるケースもあります。

③高齢者や持病のある人は致死率が高い
糖尿病、腎臓病、がん治療中の人などは特にリスクが高くなります。

④集団感染のリスクがある
温泉施設で菌が繁殖すると、複数の利用者が同時に感染する可能性があります。

実際に起きた温泉でのレジオネラ集団感染

過去には、温泉施設でレジオネラ症の集団感染が何度も発生しています。

主な事例:

  • 死者を出した大規模な集団感染
  • 数十人規模の感染者が出たケース
  • 施設の営業停止や損害賠償に発展した事例

これらの多くは、循環式浴槽の清掃不足、塩素濃度の管理不良、配管内の生物膜(バイオフィルム)の蓄積などが原因でした。

こうした事故を受けて、現在では法律や衛生基準がより厳格になり、施設側の管理責任も重くなっています。

どうやって感染するのか

レジオネラ菌は、エアロゾル(細かい水滴)を吸い込むことで感染します。

感染しやすい場面

①ジェットバスやジャグジー
気泡が弾けるときに、菌を含んだ微細な水滴が空気中に飛散します。

②打たせ湯やシャワー
水流が強いほど、エアロゾルが発生しやすくなります。

感染しない経路

逆に、次のような経路では感染しません。

  • お湯を飲む(経口感染しない)
  • お湯に浸かるだけ(皮膚からは感染しない)
  • 人から人への直接感染(飛沫感染しない)

つまり、菌を含んだ水滴を吸い込まなければ感染しないのです。

温泉施設で行われている対策

では、現場ではどのようにレジオネラ菌対策をしているのでしょうか。

①塩素消毒の徹底

循環式浴槽では、遊離残留塩素濃度を0.2〜0.4mg/L程度に保つことが義務付けられています。

現場では、法律上は1日1回以上の測定が義務付けられていますが、実際には1時間に1回測定している施設も多くあります。特に営業時間中は、利用者数の変動によって塩素濃度が変わりやすいため、こまめな確認が欠かせません。

測定結果は記録簿に記入し、保健所の立ち入り検査時に提示できるようにしています。

塩素濃度が適正範囲を外れた場合のリスク

濃度が低すぎる場合(0.2mg/L未満):

  • レジオネラ菌などの細菌が十分に殺菌されず、繁殖のリスクが高まる
  • 水質検査でレジオネラ菌が検出される可能性がある
  • 感染症が発生した場合、施設の管理責任が問われる
  • 保健所の指導や営業停止処分を受けることもある

濃度が高すぎる場合(1.0mg/L以上):

  • 強い塩素臭が発生し、利用者からクレームが入る
  • 目や皮膚への刺激が強くなり、不快感や炎症を引き起こす
  • 温泉成分が分解・変質し、泉質本来の効能や香りが損なわれる
  • 配管や設備の腐食が進行しやすくなる

適正な塩素濃度を維持することは、衛生管理と利用者の快適性の両立に不可欠です。そのため、現場スタッフは営業時間中、常に塩素濃度に気を配りながら業務にあたっています。

塩素は、レジオネラ菌を含む細菌を殺菌する最も確実で経済的な方法です。

<消毒(塩素)に関する記事については以下のリンクをチェック↓>

②浴槽水の定期的な完全換水

循環式でも、週に1回や月に数回など、定期的に浴槽のお湯を全部入れ替えます。このとき、浴槽の内部を徹底的に清掃し、配管内も洗浄します。

③配管とろ過装置の清掃

配管内には「生物膜(バイオフィルム)」という細菌の塊が付着します。この中でレジオネラ菌は塩素から守られて増殖するため、定期的な配管洗浄が不可欠です。

ろ過装置のフィルターも、汚れが溜まると菌の温床になるため、こまめに逆洗浄や交換を行います。

<生物膜(バイオフィルム)関する記事については以下のリンクをチェック↓>

④水質検査の実施

法律により、年に1回以上のレジオネラ属菌検査が義務付けられています。多くの施設では、さらに頻繁に(年2〜4回など)検査を実施しています。

検査で基準値(10CFU/100mL未満)を超えた場合は、直ちに原因究明と対策が必要です。

⑤温度管理

レジオネラ菌は60℃以上で死滅するため、給湯設備では高温に保つことが有効です。また、逆に20℃以下では増殖しにくくなります。

ただし、浴槽は入浴に適した温度(38〜42℃程度)にする必要があるため、温度管理だけでは不十分です。

⑥完全かけ流しの優位性

常に新しい温泉を注ぎ、循環させない「完全かけ流し」方式であれば、レジオネラ菌のリスクは大幅に低減されます。お湯が常に入れ替わるため、菌が繁殖する時間がないからです。

ただし、これには豊富な湧出量が必要で、すべての施設で実現できるわけではありません。

<かけ流しに関する記事については以下のリンクをチェック↓>

利用者ができる自衛策

温泉を利用する際、レジオネラ菌のリスクを減らすために意識できることがあります。

①施設の衛生管理を確認する

  • 浴室や脱衣所が清潔に保たれているか
  • 塩素濃度や水温の測定記録が掲示されているか
  • レジオネラ検査の結果が公開されているか

こうした点をチェックすることで、施設の管理レベルがある程度わかります。

②ジェットバスやジャグジーは顔を近づけない

気泡が弾ける場所に顔を近づけると、エアロゾルを吸い込みやすくなります。特に免疫力が低下している時期は、避けたほうが無難です。

③体調が悪い時は無理しない

免疫力が低下している時は、感染しやすくなります。風邪気味の時や疲れている時は、温泉利用を控えるのも一つの判断です。

④入浴後に体調不良があれば早めに受診

温泉利用後、数日以内に高熱や咳などの症状が出た場合は、早めに医療機関を受診しましょう。その際、「温泉を利用した」ことを医師に伝えることが大切です。

まとめ

レジオネラ菌は、温泉施設にとって最も警戒すべき衛生リスクの一つです。

レジオネラ菌の危険性:

  • 重症化すると肺炎を引き起こし、致死率は15〜30%
  • 高齢者や免疫力の低い人は特にリスクが高い
  • 集団感染のリスクもある

感染経路:

  • エアロゾル(細かい水滴)を吸い込むことで感染
  • お湯を飲んだり、皮膚から感染することはない

現場で行われている対策:

  • 塩素消毒の徹底管理
  • 定期的な浴槽の完全換水と清掃
  • 配管・ろ過装置の洗浄
  • 年1回以上の水質検査

温泉施設では、こうした地道な衛生管理を日々行っています。利用者として、施設の衛生管理状況を確認し、自分の体調にも注意しながら、安全に温泉を楽しみましょう。

「見えない敵」だからこそ、正しい知識と適切な対策が重要なのです。

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