温泉施設の清掃はどうやっているの?|ポリッシャー・高圧洗浄・換水作業まで現場スタッフが解説

安全衛生管理

「温泉って、どうやって掃除しているんだろう」

大きな浴場を見るたびに、そう思ったことはありませんか。広い浴室、たくさんの桶や椅子、大きな浴槽…。これを毎日清潔に保つのは、想像以上に大変な作業です。

施設で働いていると、清掃の時間は営業時間よりも長く感じることがあります。開館前の早朝から作業が始まり、閉館後も深夜まで続くこともある。それだけの手間をかけて、翌朝のお客様を迎える準備をしています。

この記事では、温泉施設の清掃の実態を現場スタッフの視点でお伝えします。普段は見えない「裏側」を知ることで、温泉への見方が少し変わるかもしれません。


温泉施設の清掃は「毎日」が基本

温泉施設の清掃は、大きく3つのタイミングに分かれています。

営業前清掃

開館前に行う清掃です。前日の閉館後に大まかな清掃を終えていても、朝には改めて浴室全体を確認します。床の拭き上げ、桶・椅子の並べ直し、鏡の水垢チェック、排水溝の確認など、お客様を迎える前の最終確認を兼ねています。

営業中清掃

お客様が利用している最中も、清掃は止まりません。脱衣場の清掃、洗い場の桶や椅子のリセット、排水溝の髪の毛取り、床の水はけ確認など、利用状況を見ながらこまめに動きます。混雑する時間帯は特に手が回りにくく、スタッフ同士で連携して対応します。現場では巡回清掃業務と言います。

閉館後清掃

一日の中で最も本格的な清掃をするのが閉館後です。ポリッシャーや高圧洗浄機を使った床・壁の洗浄、桶・椅子のヌメリ除去、浴槽の清掃など、時間をかけてしっかり行います。翌日の営業に備えてすべてをリセットするのが、この時間の仕事です。

一般家庭の浴室とは比べものにならないスケールで、毎日これだけの作業が繰り返されています。


床・壁の清掃|ポリッシャーと高圧洗浄機の使い分け

温泉施設の床と壁の清掃で活躍するのが、ポリッシャーと高圧洗浄機です。それぞれ得意な汚れと使いどころが異なります。

ポリッシャー

ポリッシャーは、円形のブラシやパッドを高速回転させて床をこすり洗いする機械です。体重をかけなくてもブラシが回転する力で汚れを落とせるため、広い浴室の床を効率よく洗えます。

特に効果的なのは、皮脂や湯垢がタイルに蓄積した汚れです。毎日多くの人が使う温泉の床には、目に見えなくても皮脂や石けんカスが積み重なっています。ポリッシャーで定期的にしっかりこすることで、手洗いでは落としきれない汚れを除去できます。

現場で気をつけているのは、床の素材に合ったブラシを選ぶことです。素材に対して硬すぎるブラシを使うと、タイルや目地を傷めてしまいます。施設の床材を把握した上で、ブラシやパッドを使い分けることが大切です。

現場で実際に使用しているポリッシャー

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高圧洗浄機

高圧洗浄機は、強い水圧で汚れを吹き飛ばす機械です。ポリッシャーが「こすって落とす」のに対して、高圧洗浄機は「水圧で吹き飛ばす」イメージです。

特に効果を発揮するのは、タイルの目地・排水溝・壁の隅・シャワーホルダーの裏側など、ブラシが届きにくい場所です。こうした細かい部分の汚れやヌメリを、水圧で一気に除去できます。

ただし使い方を誤ると、目地の目地材が剥がれたり、古い設備では隙間から水が入り込んだりするリスクもあります。水圧の調整と噴射角度には現場でも注意が必要です。

現場で実際に使用している高圧洗浄機

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洗剤の使い分け|アルカリ性と酸性の役割

温泉施設の清掃では、汚れの種類に合わせてアルカリ性と酸性の洗剤を使い分けます。これを間違えると、汚れが落ちないだけでなく、素材を傷める原因にもなります。

基本原則:汚れと逆の性質の洗剤を使う

化学の話を少しだけしますが、汚れには「酸性の汚れ」と「アルカリ性の汚れ」があります。それぞれを中和して落とすには、逆の性質を持つ洗剤を使うのが基本です。

アルカリ性洗剤が効く汚れ

アルカリ性洗剤が得意とするのは、皮脂・湯垢・石けんカスなどの有機汚れです。これらは酸性の性質を持つため、アルカリ性の洗剤で中和して落とします。

温泉の浴室では最も頻繁に使うのがこのタイプです。毎日多くの人が入浴するため、皮脂汚れの蓄積が早いです。

酸性洗剤が効く汚れ

酸性洗剤が得意とするのは、水垢・尿石・温泉成分の固着汚れです。カルシウムや鉄分を多く含む温泉では、これらが配管や浴槽の壁にこびりつきやすく、アルカリ性洗剤ではほとんど歯が立ちません。

特に鉄分や硫黄分が多い泉質の施設では、温泉成分そのものが設備に固着して独特の汚れになります。こうした泉質特有の汚れには、酸性洗剤が不可欠です。

混ぜると危険な組み合わせ

アルカリ性と酸性の洗剤を混ぜることは絶対にしてはいけません。塩素系のアルカリ性洗剤と酸性洗剤を混ぜると、有毒な塩素ガスが発生します。異なる洗剤を使う場合は、必ず一方を十分に洗い流してから次を使うことが鉄則です。現場では「洗い流し→次の洗剤」の手順で使用する、または隔日で使用するを徹底するよう意識しています。


桶・椅子のヌメリ除去

洗い場の桶や椅子のヌメリは、見た目の問題だけでなく衛生上の重大なリスクを抱えています。

ヌメリの正体はバイオフィルム

あのヌルヌルした感触の正体は、バイオフィルムと呼ばれる細菌の集合体です。細菌が集まって膜を作り、その中で増殖し続けます。温かく湿った温泉施設の環境は、バイオフィルムが形成されやすい条件がそろっています。

バイオフィルムが怖いのは、通常の塩素消毒が効きにくい点です。膜の中に守られた細菌は、塩素が届きにくく、放置すると急速に増殖します。レジオネラ菌などの危険な細菌の温床になるリスクもあるため、日常的な除去が欠かせません。

バイオフィルムの詳しいリスクはこちら

温泉施設のバイオフィルムとは?|ヌメリの正体と衛生管理

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ヌメリ除去の方法

桶・椅子のヌメリ除去には、次の3つを組み合わせて対応します。

高温洗浄:熱いお湯をかけることで細菌を死滅させます。物理的な汚れも浮きやすくなります。

塩素系洗剤への浸け置き:バイオフィルムを分解・除菌するために、塩素系洗剤に一定時間浸け置きします。表面のヌメリを取るだけでなく、膜の中の細菌までアプローチできます。

物理的なこすり洗い:浸け置き後にブラシでしっかりこすります。バイオフィルムは「浮かせてから除去」が基本です。

閉館後に桶と椅子をまとめてエリアに集め、浸け置きからこすり洗いまでを一括でこなします。数が多い施設では、これだけで相当な時間がかかります。


換水作業|浴槽のお湯を入れ替える仕事

温泉施設の清掃の中でも、特に体力と時間を要するのが換水作業です。

換水の頻度は施設によって異なる

浴槽のお湯をすべて入れ替える換水の頻度は、施設によって異なります。毎日換水する施設もあれば、週に数回、あるいは週1回という施設もあります。

頻度を決める要素は、浴槽の大きさ・利用者数・泉質・循環設備の有無などさまざまです。かけ流し式の施設は常に新鮮なお湯が流れ込むため、換水の概念が循環式とは異なります。

換水の手順

換水作業は大まかに以下の流れで行います。

  1. 排湯:浴槽のお湯をすべて抜きます。大きな浴槽では排湯だけでかなりの時間がかかります
  2. 浴槽清掃:お湯が抜けた浴槽の内側を、洗剤とブラシで丁寧に洗います。湯垢・温泉成分の固着・ヌメリをしっかり除去します
  3. すすぎ:洗剤が残らないよう、十分な水ですすぎます
  4. 新湯張り:新しいお湯を張り始めます。大きな浴槽では数時間かかることも珍しくありません
  5. 水質確認:お湯が張れたら残留塩素ORPpHを測定し、基準値内であることを確認してから翌営業に備えます

換水直後は水質が安定するまで時間がかかる

換水したばかりの浴槽は、塩素濃度やORPが安定するまでに時間がかかることがあります。新しいお湯に塩素を投入しても、水質が落ち着くまでは数値が変動しやすいため、開館前にしっかり確認することが大切です。

現場では換水のタイミングを計画的に組むことが重要です。大きな浴槽の換水は一晩がかりになることもあるため、曜日や時間帯を決めてローテーションで回している施設が多いです。

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利用者が知っておくと嬉しいこと

朝一番のお湯が一番きれい

換水・清掃が完了した開館直後のお湯は、一日の中で最も清潔な状態です。「早朝の温泉が好き」という方は多いですが、衛生面からみても理にかなっています。混雑を避けたい方にもおすすめの時間帯です。

清掃中・換水中の立入禁止エリアへのご配慮を

清掃中や換水作業中は、浴室の一部または全体が立入禁止になることがあります。ロープや案内板で区切っていても、気づかずに入ってこられるお客様が稀にいます。スタッフが安全に作業できるよう、表示には従っていただけると助かります。

「きれいに使う」ことが最大の協力

清掃の手間を大きく左右するのが、利用者のマナーです。桶を洗い場に放置する、椅子を戻さない、シャワーを出しっぱなしにするといった行動は、清掃の負担を増やします。きれいに使ってくれるお客様がいる施設は、清掃のしやすさが全然違います。

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まとめ

  • 温泉施設の清掃は営業前・営業中・閉館後の3タイミングで毎日行われている
  • 床・壁にはポリッシャー(こすり洗い)と高圧洗浄機(水圧洗浄)を使い分ける
  • 洗剤はアルカリ性(皮脂・湯垢)と酸性(水垢・固着汚れ)を汚れの種類で使い分ける
  • 桶・椅子のヌメリはバイオフィルムが原因で、高温洗浄・塩素浸け置き・こすり洗いの組み合わせで除去する
  • 換水は排湯→浴槽清掃→新湯張り→水質確認の順で行い、施設によって頻度が異なる

温泉の清潔さは、利用者の目には届かない場所でスタッフが毎日積み重ねている作業によって保たれています。次に温泉を利用するとき、そんな裏側を少し思い浮かべてもらえれば嬉しいです。

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