「台風が近づいているけど、温泉には入れるのかな?」
旅行先で台風に遭遇したとき、こんな疑問を持つ方は多いと思います。せっかくの旅行だし、露天風呂は楽しみたい——その気持ちはよくわかります。
しかし、台風時の露天風呂には想像以上のリスクがあります。温泉施設で働いていると、台風のたびに「本当に怖い」と感じる場面があります。
この記事では、台風時の露天風呂にどんな危険があるのか、施設側はどう判断して休業を決めているのか、そして休館中のスタッフは何をしているのかまで、現場の裏側をお伝えします。
台風時の露天風呂、何が危険なのか
台風時の露天風呂には、複数のリスクが同時に発生します。一つひとつは「まあ大丈夫だろう」と思えるかもしれませんが、重なると本当に危険です。
強風による飛来物
台風時に最も怖いのが、風で飛んでくるものです。
露天風呂の周囲には、植栽の枝、看板、屋根材、ベンチ、桶、椅子など、風で飛ばされる可能性のあるものが意外とたくさんあります。台風の風速は最大瞬間風速で40〜60m/sに達することもあり、この風速では小さな木の枝でも人に当たれば大きなケガにつながります。また、ひどい場合になるとガラスが割れてケガにつながる恐れもあります。
裸で入浴しているため、体を守るものが何もない状態です。普段は気持ちのいい「開放感」が、台風時にはそのまま「無防備」になるのです。
施設スタッフとしても、台風の前には露天エリアの備品を固定したり屋内に退避させたりしますが、自然の樹木や周囲の建物から何が飛んでくるかまでは完全にはコントロールできません。

雨による視界不良と足元の危険
台風の暴風雨の中では、視界が極端に悪くなります。
露天風呂では、岩場や段差がある構造が多く、普段でも足元に注意が必要な場所です。豪雨で視界が遮られると、浴槽の縁や段差が見えにくくなり、転倒・転落のリスクが跳ね上がります。
また、横殴りの雨は目を開けていられないほどの勢いになることもあります。こうなると、入浴どころか安全に移動することすら難しくなります。

雷のリスク
台風に伴って雷が発生することも珍しくありません。
露天風呂は屋外にあるため、落雷のリスクがあります。周囲に高い樹木や金属の構造物がある場合はそこに落雷しやすいですが、開けた場所にある露天風呂では入浴者自身が最も高い位置にいる状態になることもあります。
水中にいれば安全、ということはありません。落雷が近くの地面や水面に落ちた場合、感電のリスクがあります。雷が聞こえた時点で、露天風呂からすぐに退避するのが鉄則です。

設備面でのリスク——停電とろ過装置
台風のリスクは、入浴者の安全だけではありません。施設の設備にも深刻な影響を及ぼします。
停電でろ過装置が止まる
台風時に最も起きやすい設備トラブルが停電です。
温泉施設の循環式浴槽では、ろ過装置を24時間稼働させて水質を管理しています。停電が発生すると、このろ過装置が停止し、浴槽水の循環と消毒が止まります。
ろ過が停止した状態が長時間続くと、塩素濃度が低下し、レジオネラ菌をはじめとする細菌が繁殖するリスクが高まります。停電復旧後には、塩素濃度とORPを確認し、必要に応じて消毒や換水を行ってからでないと営業を再開できません。
ボイラーへの影響
加温に使うボイラーも、停電時には停止します。電気系統が復旧しても、ボイラーの再起動には安全確認が必要で、すぐにお湯が使えるわけではありません。
排水・溢水のリスク
台風の大雨で露天風呂に大量の雨水が流れ込み、浴槽から溢水することがあります。排水設備の処理能力を超えると、周囲の地盤が緩んだり、浴室内に浸水したりする可能性もあります。
施設はどうやって休業を判断しているのか
「台風が来たら休み」と単純に決められればいいのですが、実際の判断はもう少し複雑です。
天気予報を見て早めに判断
ほとんどの施設では、気象庁の台風情報や天気予報をもとに、前日〜当日朝の時点で営業可否を判断します。
判断基準は施設によって異なりますが、一般的には以下のような要素を考慮します。
- 暴風警報・大雨警報が発令されているか
- 台風の進路と最接近の時間帯
- 予想される最大風速・降水量
- 交通機関の運休情報
- スタッフの出勤が可能か
「暴風警報が出たら自動的に休業」というルールを設けている施設もあれば、状況を見ながら館長やマネージャーが都度判断する施設もあります。
露天風呂だけ閉鎖するケースも
台風が接近中でも、風雨がまだそれほど強くない段階では、露天風呂のみ閉鎖して内湯は営業を続けるという判断をすることもあります。
露天風呂の閉鎖は、ロープや掲示で入口を封鎖し、お客様が出ないようにします。「ちょっとくらい大丈夫だろう」と出てしまう方がいないよう、スタッフが定期的に巡回することもあります。
休業の告知方法
休業が決まったら、施設のウェブサイト、SNS、電話の自動音声などで告知します。宿泊施設の場合は、宿泊客に館内放送やフロントでの案内を行います。
旅行中に台風が接近している場合は、出発前に施設の公式サイトやSNSをチェックするのが確実です。
休館中、スタッフは何をしているのか
「台風で休館なら、スタッフも休みでしょ?」
実は、そうとは限りません。
もしもの時に備えて待機
休館中でも、社員スタッフが施設に待機していることがあります。目的は、台風による被害が発生した場合に即座に対応するためです。実際、私も過去に何回も経験してきました。
たとえば、こんな事態に備えています。
- 屋根や壁の破損、窓ガラスの割れ
- 浸水・漏水の発生
- 停電時の非常用電源の管理
- 設備(ボイラー、ろ過装置、配管など)の異常確認
- 宿泊客がいる場合の安全確保
施設は「建物」です。お客様がいなくても、建物と設備を守る人が必要なのです。
台風通過後の復旧作業
台風が通過した後も、すぐに営業再開とはいきません。
露天風呂エリアの安全確認(飛来物の除去、構造物の破損チェック)、浴槽水の水質確認、ろ過装置とボイラーの再起動、清掃——これらを一つずつ確認・完了してから、ようやく営業を再開できます。
大型台風の後は、復旧に丸1日以上かかることもあります。
台風時に温泉旅行の予定がある場合
台風シーズン(7〜10月頃)の温泉旅行では、台風と重なる可能性を念頭に置いておきましょう。
事前にキャンセルポリシーを確認
台風で交通機関が止まった場合、キャンセル料がどうなるかは施設によって異なります。予約時にキャンセルポリシーを確認しておくと安心です。台風などの自然災害時はキャンセル料を免除する施設も多いです。
内湯がある施設を選ぶ
台風時でも内湯であれば入浴できる可能性があります。露天風呂だけの施設よりも、内湯がしっかりある施設を選んでおくと、台風時にも温泉を楽しめる確率が上がります。
施設のSNSをフォローしておく
台風接近時の営業情報は、施設のSNS(X、Instagramなど)でリアルタイムに発信されることが多いです。宿泊予定の施設をフォローしておくと、最新情報をキャッチしやすくなります。
まとめ
台風時の露天風呂は、強風による飛来物、豪雨による視界不良と転倒リスク、落雷の危険、そして停電によるろ過装置の停止と水質悪化のリスクが重なる、非常に危険な状況です。
施設側は天気予報を見ながら早めに休業判断を行い、露天風呂のみ閉鎖、または全館休業の対応を取ります。休館中も社員スタッフは施設に待機し、建物と設備の被害に備えています。台風通過後の復旧作業も含め、安全な営業再開には想像以上の手間と時間がかかっています。
台風と温泉旅行が重なってしまった場合は、無理に露天風呂に入ろうとせず、施設の案内に従ってください。裸で屋外にいるというのは、台風時においては本当に危険な状態です。内湯でゆっくり過ごすのも、立派な温泉の楽しみ方です。
【温泉施設の災害対応まとめ|地震・台風・停電・火災、裸のときにどう動く?】
【参考文献】
・気象庁「雷ナウキャストの利用と留意点」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/toppuu/thunder4-2.html
・気象庁「急な大雨や雷・竜巻から身を守るために」 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tenki_chuui/tenki_chuui_p6.html
・厚生労働省「公衆浴場における衛生等管理要領」(令和元年9月19日改正) https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/001171614.pdf








