温泉成分の種類一覧|泉質10種類の特徴・浴感・見分け方を完全解説

温泉について学ぶ

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脱衣所の壁に貼られた温泉分析書。そこに書かれた「ナトリウム-塩化物泉」「単純温泉」といった文字を、なんとなく眺めて通り過ぎていないでしょうか。

あの表記には、そのお湯がどんな土地から生まれ、どんな肌ざわりで、どんな管理を必要としているか——すべてが凝縮されています。読み方さえ分かれば、入る前からそのお湯の性格が見えてくるのです。

日本の療養泉は、環境省の鉱泉分析法指針によって10種類に分類されています。この記事では、温浴施設で働く現場スタッフの視点から、10種類すべての特徴を一覧できる比較表とあわせて解説します。

単に定義を並べるのではなく、実際に入ったときどう感じるのか、施設側から見てどんな手間がかかるのかまで踏み込みます。この記事を起点に、気になった泉質の個別記事へ進んでいただければ、温泉の見え方が変わるはずです。

温泉成分(泉質)とは何か

温泉成分とは、地下から湧き出たお湯に含まれる溶存物質やガス成分のことです。一定の条件を満たしたものが「療養泉」として認められ、その成分構成によって泉質が決まります。

療養泉と温泉は同じではない

まず押さえておきたいのが、「温泉」と「療養泉」は範囲が違うという点です。

温泉法上の温泉は、源泉温度が25℃以上あるか、指定された成分のいずれかが規定量以上含まれていれば認められます。一方、療養泉は「特に治療の目的に供しうるもの」という、より限定された枠組みです。この記事で扱う10種類は、療養泉としての分類になります。

泉質名は「主成分」で決まる

「ナトリウム-塩化物泉」のような表記は、陽イオンと陰イオンの主成分を組み合わせたものです。前半(ナトリウム)が陽イオン、後半(塩化物)が陰イオンを表しています。

つまり泉質名は、そのお湯にもっとも多く溶けている成分の名札のようなものです。分析書の読み方は温泉成分表示の見方|現場スタッフが教える「表示板の裏読み」で詳しく解説しています。

2014年の改訂で10種類に整理された

現在の10分類は、2014年(平成26年)の鉱泉分析法指針改訂によるものです。それ以前にあった「含アルミニウム泉」「含銅-鉄泉」などは大部分が含鉄泉に統合され、逆に塩化物泉に含まれていた含よう素泉が独立しました。

比較的新しい整理なので、古い資料や施設の掲示では旧分類のままになっていることもあります。

療養泉10種類 比較表

まずは全体像を一覧で確認してください。pH、浴感、適応症、そして設備管理への影響まで並べたのは、現場の視点を持つこのサイトならではの整理です。

気になる泉質があれば、表内のリンクから個別記事へ進めます。

療養泉は、温泉のうち特に治療の目的に供しうるものを指します。泉質名は鉱泉分析法指針(平成26年改訂)で10種類に整理されました。

適応症は環境省通知に定められた泉質別適応症です。これとは別に、すべての療養泉に共通する一般的適応症(筋肉・関節の慢性的な痛み、冷え性、疲労回復など)があります。

pHと浴感は分類の定義ではなく傾向です。同じ泉質名でも源泉ごとに差があります。

また温泉の飲用(飲泉)については以下の記事をご覧ください。

療養泉10種類 比較表

療養泉は、温泉のうち特に治療の目的に供しうるものを指します。泉質名は鉱泉分析法指針(平成26年改訂)で10種類に整理されました。

適応症は環境省通知に定められた泉質別適応症です。これとは別に、すべての療養泉に共通する一般的適応症(筋肉・関節の慢性的な痛み、冷え性、疲労回復など)があります。

pHと浴感は分類の定義ではなく傾向です。同じ泉質名でも源泉ごとに差があります。

泉質/限界値 pHの傾向 浴感・見た目・におい 泉質別適応症 設備・管理への影響
単純温泉 溶存物質1,000mg/kg未満/泉温25℃以上 中性〜アルカリ性
(pH8.5以上はアルカリ性単純温泉)
無色透明・ほぼ無臭。刺激が少なく体への負担が軽い。アルカリ性のものは肌がぬるつく。 浴用:自律神経不安定症、不眠症、うつ状態 飲用:定めなし 成分が薄く、腐食・スケールともに負荷が小さい。循環ろ過との相性は良い部類。
塩化物泉 溶存物質1,000mg/kg以上/陰イオン主成分が塩化物イオン 中性付近 塩辛い。無色〜淡黄色。湯上がりに肌がべたつき、保温感が長く続く。 浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症 飲用:萎縮性胃炎、便秘 塩化物イオンによる金属腐食が課題。ステンレスでも孔食が起きうるため、配管・金物の点検頻度を上げる。
炭酸水素塩泉 溶存物質1,000mg/kg以上/陰イオン主成分が炭酸水素イオン 弱アルカリ性が多い ナトリウム型は肌がぬるつく(旧・重曹泉)。カルシウム型は析出物が出やすい。無色透明が主。 浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、皮膚乾燥症 飲用:胃十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、耐糖能異常(糖尿病)、高尿酸血症(痛風) カルシウム型は炭酸カルシウムのスケールが析出。加温部・熱交換器・ノズルに付着しやすく、酸洗浄の周期管理が要る。
硫酸塩泉 溶存物質1,000mg/kg以上/陰イオン主成分が硫酸イオン 中性付近 わずかに苦味。無色透明。湯上がりはさらりとする。 浴用:塩化物泉に同じ(きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症) 飲用:胆道系機能障害、高コレステロール血症、便秘 カルシウム型は硫酸カルシウム系のスケールが出る。炭酸カルシウムより酸洗浄が効きにくく、機械的除去が必要になる場面がある。
二酸化炭素泉 遊離二酸化炭素1,000mg/kg以上 弱酸性寄り 肌に細かい気泡が付く。無色透明。ぬるめの湯でも体が温まりやすい。日本では希少な泉質。 浴用:きりきず、末梢循環障害、冷え性、自律神経不安定症 飲用:胃腸機能低下 加温・循環で二酸化炭素が揮散し、特徴が失われやすい。低pHによる金属腐食もあり、循環ろ過との相性は悪い。
含鉄泉 総鉄イオン20mg/kg以上 中性〜弱酸性 湧出時は無色。空気に触れて赤褐色〜茶褐色に変化。金気(かなけ)のにおいと味。 浴用:定めなし 飲用:鉄欠乏性貧血 酸化した水酸化鉄がろ材を目詰まりさせる。逆洗頻度が上がり、浴槽・タイルへの着色も出やすい。
酸性泉 水素イオン1mg/kg以上 酸性(pH3未満のものも) 酸味がある。肌にピリピリとした刺激。目や傷にしみる。 浴用:アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、耐糖能異常(糖尿病)、表皮化膿症 飲用:定めなし 金属腐食性が強く、配管・ポンプの材質選定が前提条件になる。禁忌症の掲示対象(皮膚・粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症)。
含よう素泉 よう化物イオン10mg/kg以上 中性付近 時間の経過とともに黄褐色に変化。うがい薬を思わせる香り。 浴用:定めなし 飲用:高コレステロール血症 酸化による着色が浴槽・タイルに残りやすい。飲用に供する場合、よう化物イオン量に応じた含有成分別禁忌症(甲状腺機能亢進症)の掲示が必要。
硫黄泉 総硫黄2mg/kg以上 中性〜酸性まで幅広い 硫化水素型は卵が腐ったようなにおいと白濁。単純硫黄型は無色でにおいも弱い。 浴用:アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症(硫化水素型は末梢循環障害を加える) 飲用:耐糖能異常(糖尿病)、高コレステロール血症 硫化水素による金属腐食が速く、特に銅系の部材に影響が出る。ガス滞留による中毒リスクがあり、露天・機械室ともに換気の確保が必須。禁忌症の掲示対象。
放射能泉 ラドン8.25マッヘ単位以上 中性付近 無色透明・無味無臭。入浴中に特徴を感じ取りにくい泉質。 浴用:高尿酸血症(痛風)、関節リウマチ、強直性脊椎炎など 飲用:定めなし ラドンは揮散しやすく、貯湯・循環の過程で失われやすい。設備への腐食性は低い。

出典:環境省「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等の基準」(環自総発第1407012号/平成26年7月1日)PDF、環境省自然環境局「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」PDF。
浴感および設備・管理への影響は、上記の分類をもとに温浴施設での実務経験を加えて整理したものです。

10種類の泉質|特徴と現場から見た姿

ここからは、10種類それぞれを詳しく見ていきます。それぞれの項目の最後に個別記事へのリンクを置いていますので、気になる泉質は深掘りしてみてください。

① 単純温泉|もっとも「入りやすい」お湯

溶存物質が1,000mg/kg未満で、源泉温度が25℃以上のものが単純温泉です。「単純」という名前から「成分が薄くて効果がない」と思われがちですが、これは誤解です。

成分が少ないということは、刺激が少なく体への負担が軽いということ。子どもから高齢の方まで、長く浸かっても疲れにくいのが最大の持ち味です。現場でも「クセがなくて入りやすい」という声をよく聞きます。

pHが8.5以上のものは「アルカリ性単純温泉」と呼ばれ、肌がぬるつく独特の浴感が生まれます。「美人の湯」として知られる温泉には、このタイプが少なくありません。

施設側から見ると、成分が薄いぶん腐食もスケールも起きにくく、管理しやすい泉質です。循環ろ過との相性もよい部類に入ります。

詳しくは単純温泉は効能がない?|刺激が少ない利点と本当の価値をご覧ください。

② 塩化物泉|日本でもっとも多い「温まる湯」

陰イオンの主成分が塩化物イオンで、溶存物質1,000mg/kg以上。日本でもっとも多く見られる泉質のひとつです。

入るとしょっぱいのが特徴で、湯上がりには肌に塩分が残ってべたつきます。この塩分が膜のように働いて水分の蒸発を抑えるため、湯冷めしにくいという体感につながります。寒い季節や寒冷地で好まれるのは、この保温感ゆえです。

由来は海水や化石海水であることが多く、海沿いの温泉や、かつて海だった地層から湧く温泉に見られます。地質×温泉についての記事は以下をご覧ください。

ただし、施設にとっては手強い相手でもあります。塩化物イオンは金属を腐食させる力が強く、ステンレスであっても孔食(点状のサビ)が生じることがあります。配管や金物の点検頻度を上げる必要がある泉質です。放置すると配管漏水にもつながります。

詳しくは塩化物泉とは?|特徴・効能・入浴時の注意点を解説をどうぞ。

③ 炭酸水素塩泉|「美肌の湯」の代表格

陰イオンの主成分が炭酸水素イオンの泉質です。ナトリウム型は旧称「重曹泉」と呼ばれ、肌がぬるつく感触で人気があります。

皮膚の表面を柔らかくする作用があるとされ、「美肌の湯」「クレンジングの湯」と紹介されることが多い泉質です。現場でも「お湯がやわらかい」「肌触りがいい」という感想をよく耳にします。

一方、カルシウム型は性格がかなり違います。析出物が出やすく、湯口、浴槽の縁や配管に成分が固まって付着します。加温部や熱交換器、ノズルにスケールが溜まりやすいため、酸洗浄の周期管理が欠かせません。 同じ泉質名でも、陽イオンが違えば管理の難しさは別物になります。

詳しくは炭酸水素塩泉とは?|「美肌の湯」の仕組みと湯上がりの注意点を現場スタッフが解説をご覧ください。

④ 硫酸塩泉|古くから「傷の湯」と呼ばれてきた

陰イオンの主成分が硫酸イオンの泉質です。わずかな苦味があり、無色透明なものが多いため、見た目では単純温泉と区別がつきにくいこともあります。

浴感はさらりとしていて、湯上がりのべたつきが少ないのが特徴です。古くから「傷の湯」と呼ばれ、外傷や皮膚の療養に用いられてきました。

管理面では、カルシウム型で出るスケールが厄介です。硫酸カルシウム系の付着物は酸洗浄が効きにくく、機械的に削り落とす必要が出てくる場面もあります。炭酸カルシウムより手強い相手です。

詳しくは硫酸塩泉とは?|「傷の湯」と呼ばれる理由と3つのタイプを現場スタッフが解説をどうぞ。

⑤ 二酸化炭素泉|ぬるくても温まる不思議な湯

遊離二酸化炭素を1,000mg/kg以上含む泉質で、日本では天然のものが非常に少ない希少な存在です。

湯に入ると細かい気泡が肌にびっしりと付着するのが最大の特徴。この気泡が肌から吸収され、血行が促されると言われます。ぬるめの湯でも体が温まりやすいのはこのためです。

ただし、管理は非常に難しい泉質です。加温したり循環させたりすると二酸化炭素が抜けてしまい、特徴が失われます。低pHによる金属腐食もあるため、循環ろ過との相性はあまりよくないと言っていいでしょう。天然炭酸泉が「かけ流し」で提供されることが多いのは、こうした事情があります。

近年は人工炭酸泉を導入する施設が増え、体験しやすくなりました。詳しくは炭酸泉はなぜ人気で、ぬるめなのか?|美肌効果と正しい入り方をご覧ください。

⑥ 含鉄泉|色が変わっていく湯

総鉄イオンを20mg/kg以上含む泉質です。旧分類の「鉄泉」「緑ばん泉」が統合されたもので、陰イオンによって炭酸水素塩型と硫酸塩型に分かれます。

最大の見どころは、時間とともに色が変わっていくこと。湧き出した直後は無色透明に近いのに、空気に触れると赤褐色や茶褐色に染まっていきます。これは溶けていた鉄が酸素と反応し、水酸化鉄として沈殿するためです。源泉周辺の岩肌が赤く染まっているのも、同じ現象によるものです。

金気(かなけ)のにおいと味も特徴で、飲用では鉄欠乏性貧血への効能が示されています。

管理面では、酸化した水酸化鉄がろ材を目詰まりさせるため、逆洗の頻度が上がります。 浴槽やタイルへの着色も落ちにくく、清掃の手間がかかる泉質です。

詳しくは含鉄泉とは?|お湯が茶色くなる理由と「鉄の湯」の効能を現場スタッフが解説をどうぞ。

⑦ 酸性泉|刺激と殺菌力を併せ持つ

水素イオンを1mg/kg以上含む泉質で、pHが3を下回るものもあります。

入ると肌にピリピリとした刺激を感じ、傷や目にはしみます。この強さゆえに殺菌力が高いとされ、「皮膚病の湯」として古くから湯治に用いられてきました。アトピー性皮膚炎や尋常性乾癬が泉質別適応症に挙げられています。

ただし刺激が強いぶん、禁忌症の掲示が必要な泉質でもあります。皮膚や粘膜が過敏な方、高齢の方の皮膚乾燥症などが対象です。施設としても注意喚起を欠かせません。

設備への影響も深刻で、金属腐食性が非常に強く、配管やポンプの材質選定が施設設計の前提条件になります。

詳しくは酸性泉はなぜピリピリするのか|殺菌力の正体と、入るときの注意点をご覧ください。

⑧ 含よう素泉|太古の海からの贈り物

よう化物イオンを10mg/kg以上含む泉質で、2014年の改訂で新しく独立したもっとも新しい分類です。それ以前は塩化物泉に括られていました。

特徴は、非火山性の温泉に多いこと。火山の熱ではなく、堆積岩層に閉じ込められた古い海水(化石海水)に由来します。秋田や千葉といった非火山地帯で見つかるのは、こうした地質的背景があるためです。

時間が経つと黄褐色に変色し、うがい薬を思わせる香りがあります。飲用では高コレステロール血症への効能が示されている、療養泉の中でも珍しい存在です。

なお、飲用に供する場合は、よう化物イオン量に応じて甲状腺機能亢進症を含む禁忌症の掲示が必要になります。

泉質と地質の関係は泉質は地質が決める|日本地質マップで見る「湯の分布のクセ」で視覚的に確認できます。

個別解説は含よう素泉とは?|特徴・効能・うがい薬のような色の理由を現場スタッフが解説をどうぞ。

⑨ 硫黄泉|もっとも「温泉らしい」湯

総硫黄を2mg/kg以上含む泉質です。白濁した湯と独特のにおいで、多くの人が「温泉に来た」と実感する存在でしょう。

硫黄泉には2つのタイプがあります。硫化水素型は卵が腐ったようなにおいと白濁が特徴で、末梢循環障害も適応症に加わります。一方単純硫黄型は無色でにおいも弱く、同じ硫黄泉でも印象がまったく違います。

管理面での注意は二つ。ひとつは金属腐食で、硫化水素は銅系の部材をとくに速く傷めます。もうひとつがガス滞留による中毒リスクです。硫化水素は低い場所に溜まる性質があるため、露天風呂の囲いの内側や機械室・ピットでは換気の確保が生命に関わります。

硫黄泉も禁忌症の掲示対象です。詳しくは硫黄泉とは?|特徴・効能・独特の香りの理由を解説をご覧ください。

⑩ 放射能泉|感じ取れないのに効くとされる湯

ラドンを8.25マッヘ単位以上含む泉質です。「放射能」という言葉に驚くかもしれませんが、法律に基づく安全基準の範囲内で管理されており、古くから「万病の湯」として湯治に用いられてきました。

無色透明・無味無臭で、入浴中に特徴を感じ取ることがほぼできません。 見た目でも浴感でも判断できない、10種類の中でもっとも地味な存在と言えます。

しかし適応症は独特で、10種類の中で唯一、高尿酸血症(痛風)が浴用の適応症に含まれています。 関節リウマチや強直性脊椎炎も対象です。

ラドンは揮散しやすいため、貯湯や循環の過程で失われやすいという性質があります。設備への腐食性は低く、その点では管理しやすい泉質です。

詳しくは放射能泉とは?|「万病の湯」と呼ばれる理由と安全性を現場スタッフが解説をどうぞ。

泉質を「選ぶ」ための視点

10種類を知ったところで、実際にどう選べばよいのでしょうか。目的別に整理してみます。

湯冷めしたくないなら

塩化物泉が第一候補です。塩分が肌に膜を作り、保温感が長く続きます。冬場や寒冷地では、この違いをはっきり体感できます。

肌のなめらかさを求めるなら

炭酸水素塩泉(ナトリウム型)か、アルカリ性の単純温泉です。どちらも角質を柔らかくする作用があり、いわゆる「ツルツル」の浴感が得られます。

刺激が苦手なら

単純温泉が安心です。成分が薄く、体への負担がもっとも小さい泉質です。逆に、酸性泉や硫黄泉は刺激が強いので、肌が敏感な方は慎重に。

ぬるめでしっかり温まりたいなら

二酸化炭素泉です。ぬるい湯でも体が温まりやすく、長く浸かっていられます。天然は希少ですが、人工炭酸泉を導入している施設なら体験できます。

「温泉らしさ」を味わいたいなら

硫黄泉か含鉄泉です。白濁、赤褐色、独特のにおい——五感で温泉を感じたいなら、この二つは外せません。

ただし、どの泉質にも個人差があります。効能を過度に期待するより、自分が心地よいと感じる浴感を知ることのほうが、温泉選びには役立ちます。浴感については温泉の浴感とは?|ツルツル・トロトロ・ピリピリの正体を解説で詳しく扱っています。

泉質名だけでは分からないこと

ここで、ひとつ大切な注意をお伝えします。

同じ泉質名でも、源泉ごとに性格はまったく違います。

「ナトリウム-塩化物泉」と書かれていても、成分が薄いものと濃いものでは体感が別物です。成分の濃さは浸透圧という形で表れ、分析書には「低張性」「等張性」「高張性」と記載されています。この違いについては温泉と浸透圧の関係|低張性・等張性・高張性で体に起こる変化を現場スタッフが解説をご覧ください。

また、pHも泉質の定義とは別の指標です。同じ単純温泉でも、pH7の中性とpH9.5のアルカリ性では浴感がまったく違います。温泉のpHが高すぎると悪影響?|酸性・アルカリ性が肌に与える影響もあわせてどうぞ。

さらに、源泉温度、加水・加温の有無、循環かかけ流しかによっても、実際に浴槽で味わえるお湯は変わります。

泉質名は入口であって、答えそのものではない——そう考えておくと、分析書の他の項目にも目が向くようになります。

現場から見た「泉質」という条件

最後に、施設側の視点も共有しておきます。

お客様にとって泉質は「どんなお湯に入れるか」ですが、施設にとっては「どんな設備で、どれだけの手間をかけて管理するか」を決める条件です。

酸性泉や硫黄泉なら、腐食に耐える材質を選ばなければなりません。カルシウム型の炭酸水素塩泉や硫酸塩泉なら、スケール対策が日常業務になります。含鉄泉なら、ろ材の目詰まりと着色との戦いです。

比較表の「設備・管理への影響」欄は、こうした現場の実情をまとめたものです。スケールや配管の劣化といった問題は、泉質と切り離せません。

お湯に浸かりながら、「この泉質を維持するために、誰かが何かをしている」と想像していただけたら、温泉の見え方はもう一段深くなるはずです。設備の全体像は温泉設備の仕組み完全ガイド|ろ過・加温・消毒・循環設備をわかりやすく解説にまとめています。

泉質・地質MAP

泉質でめぐる日本地質マップ

泉質を選ぶと、その泉質が湧くスポットの分布と「なぜそこに湧くのか」という地質学的な理由が表示されます。火山フロントや中央構造線を重ねると、分布の意味が見えてきます。

泉質を選ぶ(療養泉10分類)
地質レイヤー
タップすると地図を動かせます

スポットは各泉質の代表例で、掲載地以外にも同じ泉質の温泉は多数あります。火山フロント・中央構造線のラインは概略位置です。地図タイル:国土地理院

まとめ

療養泉は10種類に分類され、それぞれに固有の性格があります。刺激が少なく万人向けの単純温泉、保温感の続く塩化物泉、肌がなめらかになる炭酸水素塩泉、傷の湯と呼ばれる硫酸塩泉、ぬるくても温まる二酸化炭素泉、色の変わる含鉄泉、刺激の強い酸性泉、太古の海に由来する含よう素泉、白濁と香りの硫黄泉、そして感じ取れないのに効くとされる放射能泉。

この違いを知っておくと、「今日はさっぱりしたい」「湯冷めしたくない」といった目的に合わせて温泉を選べるようになります。

そして、泉質は土地の記憶でもあります。火山のそばに湧く酸性泉、かつて海だった地層から湧く含よう素泉——お湯の性格は、その土地や地質の成り立ちが決めているのです。

次に温泉へ行ったら、脱衣所の分析書を眺めてみてください。そこに書かれた泉質名から、そのお湯がどこから来て、どんな肌ざわりで、どんな手間の上に成り立っているのかが見えてきます。それが、温泉を「知る」ということだと思います。


参考文献

  • 環境省「鉱泉分析法指針(平成26年改訂)」
  • 環境省「温泉法第18条第1項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の掲示等の基準」(環
  • 環境省「温泉法に関する通知・ガイドライン等について」 https://www.env.go.jp/nature/onsen/docs/index.html
  • 環境省「あんしん・あんぜんな温泉利用のいろは」
  • 温泉法(昭和二十三年法律第百二十五号)|e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000125

泉質 確認テスト

泉質10種類の違い、浸透圧やpHの分類、源泉温度の区分——温泉分析書に書かれている項目を、全20問の4択テストで確認できます。

Hot Spring Water Quality

温浴施設管理者検定
泉質編

泉質10種類の見分け方から、浸透圧・pH・源泉温度の分類まで。温泉分析書を読み解く知識を20問で確認します。

分析中 1 / 20
  • 出題数20問(4択)
  • 合格ライン14問正解
  • 目安時間約7分
  • 出題範囲泉質・分析書の読み方

1問ごとに解説が表示されます。間違えた問題は、最後に該当する解説記事へのリンクをまとめて確認できます。

QUESTION 01

※本検定はサイト独自の学習コンテンツであり、公的資格ではありません。分類や基準は温泉法および環境省「鉱泉分析法指針」に基づいて出題しています。適応症・禁忌症に関する内容は療養の効果を保証するものではなく、持病のある方は医師にご相談ください。

ひねこじた 温泉

温浴施設で5年以上働く現役スタッフ。水質や塩素の管理、ろ過設備の運転など、お湯を支える仕事をしています。現場で身につけた知識をもとに、温泉の仕組みや困りごとを解説しています。

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