温泉の禁忌症とは?|入ってはいけない病気・症状を解説

温泉について学ぶ

温泉施設の浴室に掲示されている「禁忌症」の一覧。目にしたことがある方は多いと思いますが、じっくり読んだことがある方は少ないのではないでしょうか。

禁忌症とは、「温泉に入ることで症状が悪化する可能性がある病気・状態」のことです。つまり、「この病気・状態の方は、温泉に入らない方がいいですよ」というリストです。

2014年に環境省がこの禁忌症の内容を大幅に改訂しました。妊娠中が禁忌症から外れたことは広く知られていますが、実はそれ以外にも重要な変更が行われています。

この記事では、現在の禁忌症の内容、2014年に何が変わったのか、泉質ごとの禁忌症の違い、そして温泉施設での掲示の実態まで、わかりやすく解説します。

禁忌症には2種類ある

禁忌症は、「一般的禁忌症」と「泉質別禁忌症」の2種類に分かれています。

一般的禁忌症は、泉質に関係なくすべての温泉に共通する禁忌症です。どんな泉質の温泉であっても、この病気・状態の方は入浴を避けるべきとされています。

泉質別禁忌症は、特定の泉質にのみ適用される禁忌症です。その泉質の特性が、特定の病気・状態に悪影響を及ぼす可能性がある場合に設定されています。

一般的禁忌症(浴用)——すべての温泉に共通

2014年改訂後の、現在の一般的禁忌症は以下のとおりです。

病気の活動期(特に熱のある場合)

風邪で発熱している、感染症にかかっている、炎症が起きているなど、病気が進行中の状態です。このような状態で温泉に入ると、体に余計な負担がかかり、症状が悪化する可能性があります。他の利用者への感染リスクもあるため、発熱時の入浴は控えてください。

活動性の結核

結核菌が活動している状態の結核です。感染性がある場合は、公共の浴場の利用自体を避ける必要があります。

進行した悪性腫瘍、または高度の貧血など身体衰弱の著しい場合

がんが進行している方や、重度の貧血で体力が著しく低下している方は、入浴による体温上昇や血圧変動に耐えられないリスクがあります。ただし、がんの治療中でも体調が安定していれば入浴が可能な場合もあるため、主治医に相談してください。

少し動くと息苦しくなるような重い心臓または肺の病気

重度の心不全や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、安静時でも呼吸が苦しい方です。温泉の温熱効果と水圧が心臓や肺に大きな負担をかけます。

むくみのあるような重い腎臓の病気

重度の腎不全やネフローゼ症候群で全身にむくみがある方です。水圧による体液バランスの変化が、症状を悪化させる可能性があります。

消化管出血

胃潰瘍や十二指腸潰瘍による出血がある場合です。入浴による血行促進が出血を悪化させるリスクがあります。

目に見える出血があるとき

外傷や手術後の出血など、目に見える形で出血がある場合です。温泉の温熱効果で血管が拡張し、出血が増加するリスクがあります。衛生面でも、浴槽水に血液が混入することは避けるべきです。

慢性の病気の急性増悪期

普段はコントロールできている持病が、急激に悪化している状態です。関節リウマチの急性期、喘息の発作時、糖尿病のコントロール不良時など、病気が不安定な時期の入浴は避けるべきです。

2014年の改訂で何が変わったのか

2014年7月の鉱泉分析法指針の改訂は、禁忌症の内容を大きく見直すものでした。

削除された項目

「妊娠中(特に初期と末期)」が削除されました。これは最も注目された変更点です。妊娠中の温泉入浴が母体や胎児に悪影響を与えるという科学的根拠がないことが削除の理由です。

旧基準にあった「高齢者」という記載も、一般的禁忌症からは削除されました。高齢であること自体は入浴の禁忌に当たらないという判断です。ただし、泉質別禁忌症の中で「高齢者の皮膚乾燥症」は残されています。

表現が変わった項目

旧基準の表現はやや抽象的でしたが、改訂後はより具体的な表現に改められました。たとえば、旧基準の「重い心臓病」は、改訂後は「少し動くと息苦しくなるような重い心臓又は肺の病気」と、具体的にどの程度の重症度を指すのかが明確になりました。

飲用の一般的禁忌症が「なし」に

旧基準では飲用の一般的禁忌症が設定されていましたが、改訂後は「飲用の一般的禁忌症はなし」とされました。成分がほとんどない単純温泉まで飲用の禁忌を設定するのは科学的に合理性がないという理由です。

ただし、飲用の禁忌症がなくなったわけではなく、含有成分別の飲用禁忌症として泉質ごとに細かく規定されています。

改訂の背景

この改訂は、環境省が一般社団法人 日本温泉気候物理医学会の協力のもと、最新の医学的知見と科学的根拠に基づいて行ったものです。1982年(昭和57年)以来、30年以上にわたって見直されていなかった禁忌症が、ようやく現代の医学水準に合わせて更新されました。

泉質別禁忌症(浴用)——特定の泉質にのみ適用

2014年改訂後の泉質別禁忌症は、実は非常にシンプルです。浴用の泉質別禁忌症が設定されているのは、以下の2つの泉質だけです。

酸性泉

禁忌:皮膚または粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症

酸性泉10種類の泉質の中で最も刺激が強い泉質です。pHが低い酸性の環境は、敏感肌の方の皮膚バリアをさらに損傷させるリスクがあります。高齢者の皮膚は水分量が少なく乾燥しやすいため、酸性泉の刺激がダメージになりやすいです。

硫黄泉(硫化水素型)

禁忌:皮膚または粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症

硫黄泉のうち、硫化水素を含むタイプは酸性泉と同様に皮膚への刺激が強いです。禁忌症の内容も酸性泉と同じです。

それ以外の泉質には泉質別禁忌症がない

単純温泉塩化物泉炭酸水素塩泉硫酸塩泉二酸化炭素泉含鉄泉、含よう素泉、放射能泉——これらの泉質には、浴用の泉質別禁忌症は設定されていません。

つまり、浴用の泉質別禁忌症があるのは酸性泉と硫黄泉(硫化水素型)の2つだけで、その内容も同じ(皮膚・粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症)というシンプルな構成です。

飲用の禁忌症——含有成分ごとに規定

飲用の禁忌症は、泉質名ではなく含有成分の量によって個別に規定されています。

主な飲用の禁忌症

ナトリウムを含む温泉は、腎不全、心不全、むくみ、高血圧の方が飲用禁忌とされています。塩分の摂取が症状を悪化させるためです。

マグネシウムを含む温泉は、下痢をしている方が飲用禁忌です。マグネシウムの緩下作用で下痢が悪化するリスクがあります。

ヨウ素を含む温泉は、甲状腺機能亢進症の方が飲用禁忌です。ヨウ素が甲状腺ホルモンの生成に影響を与えるためです。

飲泉が許可されている施設では、含有成分に基づく飲用の禁忌症が掲示されていますので、飲泉前に必ず確認してください。

禁忌症と適応症の違い

混同されやすいので整理しておきます。

禁忌症は「温泉に入ると症状が悪化する可能性がある病気・状態」です。この病気・状態に該当する方は、温泉入浴を避けるべきとされています。

適応症は「温泉に入ることで改善が期待できる病気・状態」です。泉質ごとの効能として温泉施設に掲示されています。

ただし、適応症に該当するからといって必ず効果があるわけではありませんし、禁忌症に該当するからといって絶対に入浴できないわけでもありません。個人の状態や症状の程度によって判断が異なるため、持病がある方は主治医に相談の上で温泉利用を検討してください。

温泉施設での掲示の実態

温泉法では、温泉利用施設に禁忌症と適応症を掲示することが義務付けられています。

掲示されている場所

多くの施設では、脱衣所の壁面や浴室の入口付近に、温泉成分表とともに禁忌症・適応症の一覧が掲示されています。

正直、読む人は少ない

現場で働いている実感として、禁忌症の掲示をじっくり読んでいるお客様はごく少数です。多くの方は素通りして入浴されます。

これは仕方のないことかもしれませんが、本来は持病がある方には入浴前に確認していただきたい情報です。特に心臓病や腎臓病をお持ちの方は、一般的禁忌症に該当する可能性があります。

古い掲示が残っている施設も

2014年の改訂からすでに10年以上が経過していますが、施設によっては改訂前の旧基準の掲示がそのまま残っていることがあります。「妊娠中(特に初期と末期)」がまだ禁忌症に記載されている施設を見かけることもあります。

掲示の更新は施設の責任ですが、利用者の方も「この掲示はいつ時点の情報か」を意識していただくと、不要な不安を避けられます。

禁忌症に該当しそうな場合どうするか

主治医に相談するのが基本

禁忌症に記載されている病気・状態に該当する方は、温泉入浴の前に主治医に相談してください。禁忌症はあくまで一般的な注意事項であり、個人の症状や治療状況によって入浴の可否は異なります。

「心臓病だから絶対にダメ」ではなく、「重い心臓病で日常生活にも支障がある場合は避けた方がいい」という意味です。軽度の心疾患でコントロールが良好であれば、入浴が許可されることも多いです。

施設のスタッフに相談する

「自分の持病で温泉に入って大丈夫か」が不安な場合は、フロントのスタッフに相談してください。スタッフは医師ではないため医学的な判断はできませんが、施設に掲示されている禁忌症の内容を説明したり、ぬるめの浴槽や負担の少ない入浴方法をご案内したりすることは可能です。

無理をしない

禁忌症に該当しなくても、体調が悪いときは入浴を控えてください。「せっかく来たのだから」という気持ちはわかりますが、体調不良時の入浴はのぼせや体調悪化のリスクが高まります。温泉は逃げません。体調が良いときに改めて楽しみましょう。

まとめ

温泉の禁忌症は、「温泉に入ることで症状が悪化する可能性がある病気・状態」を示したものです。一般的禁忌症(すべての温泉に共通)と泉質別禁忌症(特定の泉質のみ)の2種類があります。

一般的禁忌症には、病気の活動期、活動性の結核、進行した悪性腫瘍や高度の貧血、重い心臓・肺の病気、重い腎臓の病気、消化管出血、目に見える出血、慢性の病気の急性増悪期が含まれます。

泉質別禁忌症が設定されているのは酸性泉と硫黄泉(硫化水素型)の2つだけで、いずれも「皮膚・粘膜の過敏な人」「高齢者の皮膚乾燥症」が対象です。

2014年の改訂では、妊娠中が禁忌症から削除され、高齢者も一般的禁忌症から外されました。飲用の一般的禁忌症も「なし」に変更され、含有成分ごとの規定に整理されました。

禁忌症に該当しそうな持病がある方は、主治医に相談の上で温泉利用を判断してください。禁忌症は「絶対に入ってはいけない」という意味ではなく、「入浴によるリスクがある」という注意喚起です。個人の状態に応じた判断が大切です。

【参考文献】

ひねこじた 温泉

温浴施設で働く現役スタッフ。ガイドブックに載らない温泉の裏側を施設スタッフ目線で発信しています。

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