日本はなぜ温泉が多いのか?|地質構造から読み取って解説

温泉について学ぶ

「日本はなぜ、こんなに温泉が多いのか」

答えは「火山が多いから」――たいていの本にはそう書いてあります。半分は正解です。でも、それだけでは説明できない温泉が、日本にはたくさんあります。

たとえば有馬温泉。周囲に火山はひとつもありません。それなのに、高温で、海水より濃い塩分を含んだ「金泉」が湧いています。あるいは東京の黒湯。関東平野のど真ん中、火山とは無縁の場所から、真っ黒な湯が汲み上げられています。

温泉のできかたは、ひとつではないのです。

この記事では、温泉を「地下のどこから熱と成分を得ているか」=成因という視点で分類し、地質構造から読み解いていきます。記事の途中には、実際に触って動かせるインタラクティブな地質マップと、日本列島を輪切りにした大断面図を用意しました。「なぜそこに温泉があるのか」が、地図と断面図で立体的に見えてくるはずです。

温泉のできかたは4つに分けられる

まず全体像を押さえましょう。日本の温泉は、熱と成分の由来によって、おおまかに次の4つに分けられます。

火山性(マグマ・地熱由来)

もっとも分かりやすいタイプです。地下数kmにあるマグマ溜まりが熱源になり、しみ込んだ雨水や地下水を温めます。このとき火山ガスの成分(硫黄や酸)を取り込むため、酸性泉硫黄泉になりやすいのが特徴です。草津、登別、別府、蔵王――「いかにも温泉らしい」白濁湯や強酸性の湯は、たいていこのタイプです。

深部熱水・有馬型(沈み込むプレート由来)

火山がないのに、高温で高塩分の湯が湧く。有馬温泉に代表される、日本の温泉研究でもっとも面白いタイプです。詳しくは後述しますが、鍵を握るのは沈み込むプレートが深部で絞り出す水です。

化石海水・かん水型(堆積盆)

数十万年〜数百万年前の海水が、厚い地層の中に閉じ込められたまま残っているケースです。これを汲み上げると、塩分やヨウ素を豊富に含んだ温泉になります。千葉のヨウ素泉、新潟の油田地帯の温泉、そして東京の黒湯。平野部の温泉の多くがこのタイプです。熱源は主に地温(深いほど温かい)です。

非火山性・深部循環(断層・地温)

もっともシンプルなできかたです。地下は深くなるほど温かくなります(地温勾配:およそ100mにつき3℃)。山に降った雨が断層の割れ目に沿って1〜2km潜り込み、地温でじっくり温められてから、別の断層を伝って湧き上がる。火山もいらない、化石海水もいらない。龍神温泉や俵山温泉がこのタイプです。

――さて、この4つが「日本地図のどこに」分布しているか。ここからが本題です。

まずは地図で確かめてみてほしい

下の地図は、日本の代表的な温泉を成因別に色分けしたものです。あわせて、活火山(▲)、海溝・トラフ(プレートの沈み込み口)、火山フロント、中央構造線などの地質構造を重ねて表示できます。

凡例をタップしてレイヤーを切り替えたり、温泉のマーカーをタップして泉質と地質メモを読んだりしてみてください。さらに、成因を選ぶと地下の断面図がアニメーションで動き、その成因の温泉だけが地図上で強調されます。

地質でめぐる日本の温泉マップ | ひねこじた温泉
地質でめぐる日本の温泉マップ
温泉は、地下のどこから熱と成分を得ているか ―― 断面図と地図で「成因」を読み解く
この地図の読み方
海側の海溝・トラフでプレートが沈み込み、深さ約100kmに達したところで地下にマグマが生まれます。そのため海溝と平行に、一定の距離をおいて火山がずらりと並ぶ――この火山の最前列が火山フロントで、火山性の温泉(赤)はこの線に沿って分布します。一方、火山のない場所にも、プレート由来の深部熱水(紫・有馬型)地層に閉じ込められた太古の海水(青・化石海水)断層に沿う深部循環(緑)で温泉が湧きます。
マーカーをタップ→「地下断面を見る」で、その温泉の地下で起きていることをアニメーションで確認できます。
地下で何が起きているか ― 成因別の断面図
成因を選ぶと断面図が切り替わり、地図上ではその成因の温泉だけが強調されます
水色の粒=地下水の流れ/赤・成因色の粒=温められて上昇する熱水
日本列島 大断面図 ― 列島を輪切りにして深部までみる
地図上の断面線 A–A′B–B′C–C′ に対応。深さ方向は模式的に誇張しています。BとCの対比が核心:同じフィリピン海プレートでも、火山ができる場所とできない場所が生まれます
地図のレイヤー(タップで表示切り替え)
※成因分類・断面図は主要な学説にもとづく教育目的の簡略図です。実際の温泉は複数の要因が混ざることもあります。断層・海溝・火山フロントの位置は概略です。
onsen-hinekojita.com / 地図データ © OpenStreetMap contributors, © CARTO

いかがでしょうか。赤い「火山性」の温泉が、活火山の列とぴったり重なって、一本の線に沿って並んでいるのが見えたはずです。

この線には名前があります。火山フロントです。

なぜ火山は「一列に」並ぶのか

日本の火山は、でたらめに散らばっているわけではありません。海溝と平行に、きれいな列を成しています。1959年に杉村新氏が提唱したこの概念を、火山フロント(火山前線)と呼びます。

面白いのは、この線より海溝側(太平洋側)には、火山がほとんど存在しないことです。まるで見えない壁があるかのように、火山はぴたりとこの線で止まります。

なぜでしょうか。

ポイントは、沈み込んだプレート(スラブ)の深さにあります。海洋プレートは、海底で長い年月をかけて海水と反応し、鉱物の結晶の中に水を取り込んでいます。そのプレートが沈み込み、高温高圧の環境に入ると、やがて水を吐き出します(脱水)。

そしてこの水こそが、マグマを生む引き金になります。水が加わると岩石の融点が下がり、上部マントルの一部が溶けてマグマができるのです。気象庁の解説でも、沈み込んだ海のプレートからの水の働きによって上部マントルの一部が融け、マグマが形成されると説明されています。

ここが肝心なところです。地震調査研究推進本部(地震本部)によれば、火山はスラブの深さが100〜150kmに達したところの地表に、海溝軸とほぼ平行に分布するとされています。産総研の資料でも、多くの沈み込み帯でスラブ上面の深度が90〜100km程度になると、その真上に火山フロントが形成されると述べられています。

つまり――

火山フロントの位置を決めているのは、「海溝からの距離」ではなく「その下に沈み込んだプレートの深さ」である。

プレートが深さ約100kmに達したところの真上に、火山ができる。プレートは一定の角度で沈み込んでいくので、結果として海溝と平行な線ができあがる。だから火山は一列に並び、だから温泉もその線に沿って並ぶ。地図の上に見えていたあの並びには、こういう理由があったわけです。

マップの「大断面図」で A–A′(東日本) を選ぶと、この一連の流れ――太平洋プレートが日本海溝から沈み込み、深さ約100kmで水を放出し、マグマが生まれ、蔵王など火山フロント沿いの温泉になる――を、アニメーションで追うことができます。

火山がないのに、なぜ有馬温泉は熱いのか

さて、ここからが本題です。

有馬温泉には、火山がありません。近くに活火山はひとつもない。それなのに、90℃を超える高温の湯が、海水の約2倍ともいわれる濃い塩分とともに湧き出しています。あの赤褐色の「金泉」です。

これはいったい、どういうことなのか。

この謎に挑んできたのが、産業技術総合研究所(産総研)の深部流体研究グループです。彼らの研究によって、有馬の湯の正体がかなり見えてきました。

鍵は、西日本の下に沈み込んでいるフィリピン海プレートです。

先ほど説明したとおり、沈み込むプレートは深部で水を吐き出します。産総研の森川徳敏・深部流体研究グループ長は、フィリピン海プレートが沈み込む西日本では、深さ60kmくらいまでに岩盤のほとんどの水が出ると説明しています。そして、その深さがちょうど有馬温泉の付近にあたるのです。

プレートから絞り出された高温の水(スラブ起源水)は、マントルの中を上昇し、断層を伝って地表へと湧き出す。有馬の湯に含まれるリチウムや塩素の濃度、そしてヘリウム同位体の分析からも、この湯が地下深くの高温の場所からやってきたことが示されています。

この「有馬型深部流体」は、有馬だけの特殊現象ではありません。研究によって、神戸周辺や紀伊半島にも同じ特徴をもつ温泉がいくつも見つかっています。中央構造線のような大断層に沿って湧出することが多いのも特徴です。断層が、深部からの水の通り道になっているわけです。

マップの大断面図で B–B′(西日本) を選んでみてください。火山がひとつもない断面に、プレートから絞り出された水が断層を駆け上がって有馬に達する様子が描かれています。近くの紀伊山地では、雨水が深部循環して龍神温泉になる――同じ断面に、まったく違う成因の温泉が同居しているのが分かります。

では、なぜ阿蘇には火山があるのか

ここで、鋭い人はこう思うはずです。

「待てよ。九州にもフィリピン海プレートが沈み込んでいるはずだ。それなのに阿蘇も霧島も桜島も、りっぱな火山があるじゃないか」

そのとおりです。そして、この問いこそが、地質と温泉の関係を理解する上でいちばん大切なポイントだと私は思っています。

答えは、「同じフィリピン海プレートでも、沈み込んでいる部分が違う」ということです。

近畿の下に沈み込むフィリピン海プレートは、比較的若く温かい部分です。若いプレートは軽くて浮力があるため、浅い角度でしか沈み込めません。すると2つのことが起こります。ひとつは、深さ100kmに到達する前に浅いところで水を出し切ってしまうこと。もうひとつは、プレートの上にできるマントルの層(マントルウェッジ)が薄くなり、マグマを生むほどの高温にならないことです。

マグマができるには、「水」と「熱いマントル」の両方が必要です。近畿では、水は供給されても、それを受け止める熱いマントルがない。だから火山ができない。しかし水そのものは上がってくるので、有馬型の温泉になる――というわけです。

一方、九州の下に沈み込むフィリピン海プレートは、より古く冷たい部分です。古いプレートは冷えて重くなっているので、深く、急な角度で沈み込みます。その結果、マントルウェッジは厚く高温になり、プレートから放出された水が加わってマグマが発生する。だから九州には、阿蘇・霧島・桜島が火山フロント沿いに並び、別府をはじめとする火山性温泉の一大地帯が広がっているのです。

「フィリピン海プレートだから火山がない」のではない。沈み込むプレートの年齢・温度・角度が、火山ができるかどうかを分けている。

近畿(火山なし・有馬型)と九州(火山あり・阿蘇)は、同じプレートが引き起こした、見事な対照例なのです。マップの大断面図で B–B′C–C′ を切り替えて見比べてみてください。この記事でいちばん見てほしい部分です。

火山も海水もいらない温泉

最後に、残る2つの成因にも触れておきます。

平野の地下に眠る「太古の海」

関東平野や新潟平野のような、厚い堆積層が積み重なった場所。その地下には、大昔の海水が地層に閉じ込められたまま眠っています。化石海水(かん水)です。

これを井戸で汲み上げれば、それは立派な温泉になります。千葉県の白子温泉は、南関東ガス田のかん水由来で、ヨウ素を豊富に含みます。新潟の月岡温泉は、石油の掘削中に湧き出したという出自を持ちます。

そして東京の黒湯。あの真っ黒な色は、太古の植物が分解してできた腐植質(フミン質)によるものです。塩分は化石海水系。都会のど真ん中の銭湯から、数百万年前の海と森の記憶が湧き出している――そう考えると、なかなかロマンがあります。

地面の熱で温まる、いちばんシンプルな温泉

そして④の非火山性・深部循環。地下は100mにつき約3℃ずつ温かくなるので、2km潜れば単純計算で60℃を超えます。山に降った雨が断層に沿って深く潜り、地温で温められて、また別の断層を伝って湧き上がる。

マグマも化石海水も必要ない、もっとも素朴な温泉のできかたです。紀伊山地の龍神温泉、山口の俵山温泉といった、火山の少ない地域の名湯がこのタイプです。とろりとしたアルカリ性単純温泉が多いのも特徴といえます。

温泉は「地球のしくみ」の出口である

ここまで見てきたことを、ひとことでまとめるなら――温泉とは、地球のプレート運動や地質構造が、地表に顔を出したものだということです。

泉質×地質の湯の分布のクセに関しての記事は以下をご覧ください。

草津の強酸性泉は、太平洋プレートが深さ100kmで放出した水が生んだマグマの熱を伝えています。有馬の金泉は、フィリピン海プレートが地下60kmで絞り出した水そのものです。東京の黒湯は、数百万年前の海の記憶です。

私たちが「気持ちいいなあ」と浸かっているそのお湯には、それぞれまったく違う、壮大な出自があります。

次に温泉に行ったら、脱衣所に掲げられた温泉分析書を見てみてください。泉質、成分、湧出温度。そこに書かれた数字の向こう側に、この記事で見てきた地下の構造が透けて見えるようになれば、温泉はもっと面白くなります。

その温泉は、地球のどこから来たお湯なのか。ぜひ、上の地図と断面図で確かめてみてください。


参考文献・出典

※本記事の成因分類および断面図は、上記の一次資料にもとづく教育目的の概説です。実際の温泉は複数の要因が複合して成り立つ場合があり、断面図の深さ方向は模式的に誇張しています。

ひねこじた 温泉

温浴施設で働く現役スタッフ。ガイドブックに載らない温泉の裏側を施設スタッフ目線で発信しています。

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